【観察眼】さらば 美味しい刺身よ

2023-06-25 17:08:43  CRI

 新鮮な刺身に醤油とわさびをつけて口に入れる。すうっと溶けるような食感は実に心地よいものだ。刺身など海の幸は日本料理の代表として多くの人を魅了している。しかし、今年の夏、すべてが変わるかもしれない。

 東京電力福島第一原発の核汚染水の放出設備が12日に試運転を始め、早ければ7月の初め頃には正式に放出が開始される計画だ。周知のとおり、日本政府が太平洋に放出しようとしているのは、福島第一原発の原子炉の中で溶けた核燃料・デブリを冷やすために注がれ続けている水、建屋に流れてくる地下水や雨水が核燃料に触れた「汚染水」である。多核種除去設備(ALPS)を使うことで60種類以上の放射性物質を分離させた「処理水」だと繰り返し説明されたとしても、それに含まれる放射性物質は極めて複雑で、海水を汚染するだけでなく、海洋生態ならびに世界中の生物に影響を及ぼし得る。

 海と共に生きる漁民たちは、核汚染水の海洋放出によるダメージをよく知っている。このところ連日、坂本雅信JF全漁連会長をはじめ、阿部国雄北海道漁連会長、村井嘉浩宮城県知事らが相次いで西村康稔経済産業大臣を訪ねて要望書を手渡し、汚染水の海洋放出を容認できない立場を改めて表明し、別の適正な処理方法を求めた。福島県民や周辺の漁民や住民も相次いで集会を行い、汚染水の海洋放出に強く抗議した。

 漁業は日本の経済が成長するうえで重要な産業で、放射能を含む汚染水を海に流すことは、日本の漁業に致命的なダメージをもたらすことになる。これは激減している福島県の漁業データから分かる。2022年の福島三大漁業協会の漁獲量は福島第一原発の核事故発生以前の2割にも満たない、わずか5500トンだった。

 福島のみならず、全日本の漁業は危機に陥っている。日本農林水産省の統計によると、養殖を含む日本漁業の2022年の漁獲量は前年比7.5%減の385.86万トンで、2年連続減少し、記録の残っている1956年以来の最低だった。

 日本の水産物は常に安全・新鮮・良質を誇りとし、日本から産地直送で届く水産物は、かつては国外の高級な日本料亭が客を集める看板となっていた。しかし、汚染水の海洋放出に迫られ、ますます多くの消費者は健康上の配慮から、日本産の水産物を避けようとしている。現在、米国、欧州連合(EU)、韓国、中国を含む12の国と地域は福島県などの日本産水産物と農産品などの食品に対して輸入制限措置を実施しているが、正式に海洋放出が始まれば、より多くの国と地域が日本の食品を規制するだろう。

 日本国内の消費者も日本産の海の幸を敬遠している。日本水産庁が発表した「水産白書」によると、日本では魚介類の1人当たり年間消費量は減少し続け、2021年度には前年度より0.4kg少ない23.2kgとなった。これは記録の残っている1960年以来の最低であり、ピーク時(2001年度)の6割を下回った。

 マイナス影響はまた、水産物加工や海塩生産など、海洋食品に関連するほぼすべての産業に及ぶ。核汚染水の海洋放出によるダメージを受けて、日本製品には「不安全」のレッテルが貼られてしまう。食品、薬品、保健品、化粧品、観光商品、アパレル、日用品など、いずれも風評被害から逃れられず、それによる経済的損失は計り知れない。

 「いわゆる公害で人間が発病する場合、それは決して突発的に起こるのではない。それ以前に長期にわたる環境の異変が先行する。」これは日本の熊本大学医学博士原田正純氏の著作『水俣病』(岩波新書、一九七二)での記述である。1950年代に発生した水俣病の被害がまだ完全に終わったとはいえないのに、今日の日本政府は歴史の教訓をまたもや忘れてしまった。放射能を含んだ汚染水を海に流すことで、経済的な損失よりもっと恐ろしいものは、今後数世代にもわたって背負わなければならない公害問題だろう。

 夏になると、海へ行く人が多い。海の景観や海の幸を楽しむ。しかし、この夏は、やむを得ず日本の美味しい刺身と別れを告げることになるのだろうか。海を守ろうと戦っている日本の漁民たちにエールを送りたい。安全と品質にこだわる日本食品がかつての栄光から転落しないよう願っている。(CMG日本語部論説員)

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