【観察眼】限りなく引き上げられる米国の「上限」

2023-06-09 17:39:01  CRI

 バイデン米大統領は、政府の借金の上限である「債務上限」の適用を2年後の2025年まで停止する「財政責任法案」に署名し、米政府の史上初の債務不履行を回避した。しかし、第二次世界大戦終戦以降で103回目となる今回の債務上限の調整は以前と同様、米国の債務危機を解決するどころか、米国さらには世界の金融リスクを深刻化するだけだとみられている。

 債務上限の適用の延期がもたらす結果の一つに、米財務省が減少していた資金を拡充するために少なくとも数千億ドル規模の債券を発行することが考えられる。これは、大量の資金を吸い上げ、市場を流動性の緊張、もしくは枯渇状態に陥れる恐れがある。それにより、すでに崩壊間際にある米国経済が完全に衰退方向へと導かれる可能性もある。

 経済衰退が予想される中、同法案は政府支出の減少につながり、米国の経済や雇用に大きな影響をもたらすだろう。これと同時に、不確定な債務状況と不安定な財政は投資家の恐慌を引き起こし、株価の下落や資金の流出、金融市場の変動をもたらす。その結果、経済成長と投資が阻まれ、金融危機が起こる可能性が高まっていく。

 限りなく債務上限を引き上げていけば、米国の債務危機が深刻化し、返済圧力が高まり、それに応えて政府支出が増加し、インフレや経済の不安定につながるとみられる。

 今回、バイデン大統領が署名した法案は「財政責任法案」だが、実質上では、債務問題の根本的な原因である米財政の「無責任さ」の解決には触れていない。債務上限の適用を次期大統領が就任予定の2025年に先送りしたことは、責任を逃れる行為にほかならない。今回の法案は、債務問題に関して米国の長期にわたって存在する制度上の問題点、すなわち深刻な収支のアンバランスと財政赤字、および経済危機の際にドルの覇権的地位を利用して実施する超緩和的な通貨政策を変えることもできない。

 世界の債務残高は現在、305兆ドルであり、そのうち米国の債務が31兆4000億ドルで首位となっている。世界最大の経済体と主要国際通貨の発行国である米国は、自らの財政状況と政策決定によって世界経済に大きな波及効果をもたらしている。しかし米国は長期にわたりドルの覇権を活かしつつ、借金を増やし、危機を転嫁し、インフレを全世界に輸出している。これにより、新興国や発展途上国では債務問題が深刻化し、経済がダメージを受け、また、世界経済の回復も足を引っ張られる状態となった。

 米国にとって、債務の上限はいったいどこにあるのだろうか、「上限」というものに意味があるのだろうか。米国民を含む世界の人々が疑問に思うところであろう。(CMG日本語部論説員)

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