政府活動報告からみる2023年の中国経済見通し~対外経済貿易大学・西村友作教授に聞く

2023-03-14 17:18:52  CRI

 

 一年の計は春にあり! 中国では毎年春に、向こう一年の重要政策や方針を審議する最高国家権力機関・全国人民代表大会が開かれます。今年、第1回会議を開いた第14期全国人民代表大会は3月13日、「2023政府活動報告」を採択して閉会しました。

 政府活動報告で発表された目標や取り組み、2023年の中国経済をみる上でのポイントについて北京在住20年余りという経済学者・西村友作さん(対外経済貿易大学教授)にお話を伺いました。

第14期全国人民代表大会第1回会議の様子

■「GDP5%前後の成長目標」は妥当な数字 

――2022年の国内総生産(GDP)の成長率は3%となり、年末の都市部失業率は5.5%に抑えることができました。まずは、この1年の中国の経済運営についての評価を聞かせてください。

 2022年の中国経済は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でかなり厳しい状況となりました。

 四半期別の成長率の推移をみてみると、第2四半期が0.4%と最も低く、その後若干持ち直しています。年後半に打ち出された、一連の政策パッケージが一定の効果を挙げたと言えると思います。

――今年の中国経済については「国内総生産(GDP)の5%前後の成長」が掲げられましたが、この目標設定をどう評価しますか。

 今年の経済成長率の目標は「5%前後」と、22年の「5.5%前後」から引き下げられました。

 これは昨年12月の中央経済活動会議でも示された「穏字当頭、穏中求進」(安定を最優先し、安定の中で前進を求める)を堅持するという方針に則したもので、現在の潜在成長率に基づいた妥当な数字だと思います。

 また、今年の世界経済は景気後退が懸念されており、経済成長率も低迷するとの予測もあります。このような中、中国が5%程度の成長を実現することで、今年の世界経済のけん引役となることが期待されています。


2023年2月、河南省洛陽市のスーパーにて野菜を選ぶ消費者

■日本の産業界 コロナ後の中国経済に期待

――2023年の経済社会発展の重点的な取り組みとして、内需の拡大、現代化産業システムの構築の加速、外資利用の重視などといった8つの面が強調されました。これらの取り組みの中で、西村教授が特に注目している点について教えてください。

 これらの政策の多くは、昨年12月の中央経済活動会議の内容を踏襲しており、一部、グリーン化や民生保障などが加えられました。いずれも極めて重要な政策です。

 なかでも私が注目しているのは、一丁目一番地で挙げられている「内需拡大」です。消費の回復、拡大を優先しつつ、所得の増加を図るものです。地方専項債の発行枠は前年より1500億元多い3兆8000億元と、予算額としては最高となりました。また、科学技術や農村振興、教育、グリーンなど、重点分野を積極的に支援する姿勢が示されました。

 この他にも、「雇用優先政策を各地で徹底し、若者、とくに大学新卒者の就職支援に、より優先的に取り組む」という方針が示されています。現在、若年層の失業率が高止まりしていることに加え、今年の大学新卒者は過去最高の1100万人を超える見込みとなっています。中国政府は、このような社会問題も重視していることがうかがえます。

――今年の政府活動報告の中では、「外資の誘致と利用」が強調されています。日本サイドでは、このメッセージをどう受け止めているのでしょうか。

 外資に関する項目では、昨年の「外資を積極的に利用する」から、今年は「外資の誘致・利用にいっそう力を入れる」とさらに表現を強くしています。特に、「誘致」という言葉を用いており、積極的に中国への投資を促そうという姿勢が見て取れます。

 報告の中で李克強総理が述べている通り、中国市場の拡大は外資企業に大きなチャンスであることは間違いありません。その一方で、外資企業は中国市場に活力を与え、中国が目指す質の高い発展に寄与するというのも事実です。

 多くの日本企業が、自国の隣にこれだけ巨大で魅力的な市場があるという事はしっかりと認識していると思います。足もとで日本からの出張者が増えているという話も聞いていますので、日本の産業界も、コロナ後の中国経済に期待しているのだろうと思います。

2023年1月、江蘇省南通市に進出した外資企業で技術開発の状況を視察する地元政府関係者

■中国発のイノベーションは世界経済にも大きなプラス

――最後に、今後の中国経済の成り行きについて、5年あるいは10年スパンでとらえた場合の評価をお願いします。

 今後の中国経済を見ていくうえで重要なのが「質の高い発展」です。昨年開催された中国共産党第20回党大会の演説で、習近平総書記は「質の高い発展は社会主義現代化国家の全面的建設の最重要任務である」と、この「質の高い発展」の重要性を強調しています。

 つまり、これまでの「規模」を追い求める発展を改め、イノベーションを根本的な原動力とした、質の高い発展を目指す方向へと進んでいくと考えられます。

 中国で生まれるイノベーションは、当然、世界経済にとっても大きなプラスとなります。特に、デジタル分野における中国のイノベーションが期待されます。

 2010年代、中国経済の成長を牽引してきたデジタル経済はBtoC型サービスが中心でしたが、今後は成長ペースが鈍化していくと考えられます。私は、中国のデジタル経済は中長期的には、BtoB型ビジネスが今後の成長の中心となっていくとみています。

(聞き手:王小燕、校正:鳴海美紀)

【プロフィール】

西村 友作(にしむら ゆうさく)さん

 対外経済貿易大学 国際経済研究院 教授、日本銀行北京事務所 客員研究員

 2002年より北京在住。

 2010年に対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学で日本人初の専任講師として採用される。同副教授を経て、2018年より教授に。

 専門分野は中国経済・金融。メディアでは主に中国のキャッシュレス、フィンテック、新経済(ニューエコノミー)などを解説。

 主な著書は『キャッシュレス国家 「中国新経済」の光と影』(文春新書、2019年4月)、『数字中国(デジタル・チャイナ)―コロナ後の「新経済」』(中公新書・ラクレ、2022年2月)。

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