北京
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米国が国家安全保障上の脅威を口実に、中国系動画投稿アプリ「TikTok」への規制を強めていることに世界が注目している。TikTokは米国の法令を順守し、正当な企業活動を展開しているにも関わらず、米当局は「ありもしない」罪で圧力を加えているのだ。こうした動きの背景には一体何があるのだろうか。
この問題が始まったのは、中米がハイテク分野で熾烈な競争を繰り広げている最中だった。2022年、シリコンバレーのIT大手が次々と経営不振に見舞われる中、TikTokのダウンロード数は急成長を続けていた。アプリ調査会社Apptopiaの発表によると、2022年の全世界のアプリダウンロード数のトップはTikTokの6.72億回で、InstagramやWhatsAppなどの米国系アプリを大きく引き離している。一部のアナリストは、米政府が行政介入によってTik Tokを抑え込もうとした狙いは、自国のインターネット企業の市場シェアを守ることにあるとしている。
米政府がTik Tokを目の敵にしているのは、Tik Tokのコアコンピタンスであるレコメンドのアルゴリズムが米国の世論形成に影響を与えたことと無関係ではないという声もある。2月初めにオハイオ州で発生した列車事故による有害物質の流出は、生態系と環境に深刻な影響をもたらし、地域住民の安全を脅かしたにもかかわらず、米国メディアで大きく取り上げられることはなかった。その背景には、米国のロビー制度がある。事故からメディアの関心を逸らすことは、民主・共和両党の暗黙の了解であった。地元住民が撮影した動画は、ツイッターやYouTubeなど米国系SNSでは目立たないように扱われ、ツイッターではトレンド入りさえしなかった。しかし、それらの動画がTikTokで拡散され始めたことがきっかけとなり、米国のインターネットは炎上した。同じような現象は、ノルドストリーム爆破をめぐる報道でもみられた。
TikTokは、企業が市場の法則に基づいて、デジタルコミュニケーションによって人々の生活をより豊かにするために開発されたSNSだ。しかし、米国はそれを政治に利用し、イデオロギーと結び付けて罪名を与えようとしている。たしかに、これによってTikTok社の企業イメージは傷つくだろう。しかし、米国の市場の公平と正義も同時に傷つくことになる。米国には、TikTokをプロモーション活動に利用する中小企業も数多くあり、彼らもまた米国の政治の巻き添えを食うことになる。米国が口実にする国家安全保障やプライバシーの脅威は実在せず、TikTokを使用禁止に追い込もうとする米国のやり方は、中国を標的にした覇権行為そのものだといえる。
実は、外国企業が米国企業を抜いて優位に立ったときに、米国がさまざまな政策を駆使して、やっきになって締め付けに走るのは、今回が初めてではない。歴史を振り返ってみると、1980年代に米国が日本を相手に「半導体戦争」を仕掛けた際、日本の半導体は世界市場の50.3%のシェアを占めていた。1986年に日本の半導体市場の解放を求める「日米半導体協定が締結されると、米国は反ダンピングなどを理由に、日本メーカーの製品に対して、米国政府が主導する「公正市場価格」を設定した。日本の半導体産業の優位性は著しく損なわれ、その結果、1992年には海外企業が日本市場の20%のシェアを獲得することとなった。
2020年、トランプ前大統領はTikTokの米国での運営を禁止する大統領令を出したものの、その後の一連の訴訟では敗訴している。今回の米下院外交委員会の関連決議の先行きについても、アナリストは決して楽観視していない。
科学技術の意義は社会に利益をもたらすことだ。米国で企業活動を展開しているTikTokもファーウェイも、その他の中国系IT企業も、米国の社会と国民の暮らしに利便性をもたらし、歓迎されていた。ところが、アメリカ政府はそういった事実を無視して、“中国系”だという出自を理由に、むやみな制限を加えようとしている。民主主義を謳い、専制反対を口ぐせにしている米国は、覇権こそが最も露骨な専制であるということを忘れている。(CMG日本語部論説員)