中国と中日関係のいまを知るための対話(前編)~党大会報告、私はこう読み解く

2022-11-22 22:03:16  CRI

 中央広播電視総台(チャイナ・メディア・グループ/ CMG)日本語放送が11月11日に、「中国と中日関係の今を知るための対話」と題したパネルディスカッションを行いました。そこで議論された内容を前編と後編に分けてお届けします。前編は、「党大会報告、私はこう読み解く」をテーマに、日本側のパネリストたちの分析を抜粋してご紹介します。

モデレーター:王小燕

パネリスト:
(日本)

   村田 忠禧(横浜国立大学名誉教授)
   岡田 充 (元共同通信客員論説委員)
   泉川 友樹(沖縄国際大学沖縄経済環境研究所特別研究員)
   石田 隆至(上海交通大学人文学院副研究員)

 (中国)
   劉江永(清華大学国際関係学部教授)
          汪 婉(北京大学経済学院特任教授)
   張季風(中国社会科学院日本研究所元副所長)
   蔡 亮(上海国際問題研究院研究員)
   呉寄南(上海市日本学会名誉会長/オブザーバー参加)

◆横浜国立大学・村田忠禧名誉教授

法治国家の全面的整備が見て取れる

 語彙の出現頻度に基づく第20回党大会報告の特徴について分析してみると、総じていえば、21世紀に入ってからの党大会報告では「発展」「建設」「人民」など、頻度数の高い上位10位の語彙に変化は少なく、第16回から第20回までは、共通する部分がかなり多いことが分かります。

 第19回党大会報告で初登場した言葉として、「新時代の中国特色ある社会主義」「人類運命共同体」「緑色」「核心価値観」「中国の夢」などが挙げられます。第19回に比べ、第20回党大会報告で増えた言葉として、「国家」が挙げられ、「安全」「法治」「治理(ガバナンス)」「人類」「生態」「保護」という言葉は第19回、第20回になると非常に多くなっています。

 「全過程人民民主」など、今回の党大会報告で初登場する語彙もあります。また、中国共産党史を研究する者として、「学史(歴史を学ぶ)」、「党史(党などの歴史)」という言い方も今回初めて目にするもので、注目しています。これは昨年が中国共産党創立100周年であったことも関係しますが、それだけでなく、新しい時代になったということを考える上で、歴史的なものの見方をする必要があるということを提起しているのではないかと思います。それから「法治」という言葉も多く取り上げられており、中国が今後も法治国家体制の全面的整備を継続していくということが読み取れると思っております。

 ◆上海交通大学人文学院・石田隆至副研究員

現代世界の核心問題に中国独自のアプローチを示す

 中国共産党の第20回党大会報告の中では、14項目のトピックが挙げられていました。中国国内の課題を主に扱っていながら、その内容には一国の枠を越えた先駆的な可能性を含んでいるものも少なくありません。そのうちの2点に注目しておきます。

 第一は、「一国二制度」や「人類運命共同体」の項目で取り上げられた平和の問題です。

 ウクライナ情勢に代表されるように、世界は今たいへん緊迫した状況にあります。世界が力の論理に基づく支配―被支配の関係で覆い尽くされるのか、それとも、一極支配を脱し、大小や強弱を問わず相互尊重の論理に基づく共生関係が基調となっていくのか、その瀬戸際にあると思います。

 国際紛争に対する中国のアプローチは、他者を力で排除したり支配したりするのでもなく、関係を断ち切って没交渉になることで紛争に蓋をするのでもない。香港や台湾情勢はあくまで国内問題ですが、異質さや対立性さえ残しつつも、相補的で活かし合う関係を作り出すことで、これまでにない「平和的発展」を実現しようとしています。

 第二に、格差拡大と環境破壊への対処について。

 格差拡大や貧困解消のために際限なく経済成長を追求すれば地球環境が破壊され、貧困層ほどその環境破壊の結果に苦しむという悪循環に陥ってしまいます。これもまた、現代世界が直面している解決しがたい難題です。

 格差解消と環境保全を同時に追求しながら、幸福や安全を実感できる堅実な経済成長を達成しようとしているのが今の中国経済といえます。こうしたアプローチによって「共同富裕」を達成しようとする見取り図を提示しているところに、「人類が直面している共通の問題を解決」しようとする気概が伺えます。

 総じて言えば、第一、第二の注目点は結び付いています。侵略、植民地化、資源略奪、内外の搾取等を厭わず経済成長に偏重した従来型の発展モデルから、協調、対等、環境優先、民衆の利益を重視した暮らしの質を高める新たな平和的発展モデルを具体化させているのが、中国の創新であり、貢献だと思います。

 中国社会は異質だと西側社会でよく言われていますが、実際の中身をみてみると、各国の抱えている課題との共通性に気づき、その克服策にも独自性、先駆性が際立っていると感じました。

◆元共同通信客員論説委員・岡田 充氏

中国式現代化は「多様な価値観に基づく多極秩序」 

 今回の党大会報告の特徴について、5点ほど指摘したいと思います。

 まずは、「中国式現代化」を日本メディアは「欧米の経済発展方式を否定する異質な路線」と、対立点を強調した報道を多くしていること。しかし、中国共産党の世界秩序観は「多様な価値観に基づく多極秩序」にあり、多様な発展方式を認めていることを忘れてはいけないと思います。

 米国による一極の世界秩序が動揺する中で、地球温暖化やパンデミックなど世界的課題を前に「人類運命共同体」の理念を掲げて、グローバル協力を提唱しているのが特徴です。これは時宜に適った提案であり、世界的課題に取り組むには多国間協力が欠かせないことを改めて強調したと思います。

 次に、日本メディアを含む西側メディアは、「中国式現代化は改革開放政策を否定する路線」と見ていますが、中国共産党の規約をよくみれば、そうではないことが良く分かります。たとえば、規約には党の歴史的3大任務として「現代化達成、祖国統一、平和的国際環境」が掲げられています。第20回党大会も改革開放路線を継承しつつ、「社会主義現代化強国」を達成する新目標に向かい、新戦略方針を示したということが分かります。

 三つ目に、党規約の中で私が注目しているのは「社会の主要矛盾」として「人民の日増しに増大する物質・文化面の必要と立ち遅れた社会的生産との間の矛盾」という記述が、「より良い生活要求の高まりと不均衡な発展の矛盾」に変化した点です。その背景となっているのは、貧困から脱却し、「小康社会」が実現しつつある中、「より良い生活への要求」と「不均衡な発展」との矛盾解消という高い目標を設定したことにあると感じました。これは共同富裕政策の推進、分配制度の改善、機会の公平性の促進が同時に提起されていることをみても、「不均衡発展」のゆがみを正して、国民生活の新たな質的向上を目指す意義のある政策だと思います 。

 四つ目に、米中戦略対立が激化する中、経済発展方式で、国内循環と国際循環をリンクさせる「双循環」が書き込まれています。これは、米中対立が長期化し、米国などが進める「グローバル経済の切り離し」に備えた新発展方式であると思っています。また、あらゆる領域で「安全」が強調されたのは、安定を揺るがす厳しい内外環境、「百年に一度の変化」という危機感が表れていると思います。

 五点目は台湾政策です。日本メディアは党大会報告で「武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を残す」とした部分を、「統一のためには武力行使も辞さない姿勢を示した」という誤ったリポートを多々していました。

 私が考えなければならないと思ったのは、中国の台湾政策は1979年以来の「平和統一」にあり、仮に中国が「武力統一」を認めたなら、歴史的な大ニュースになったはずです。習主席は武力行使の対象を「外部勢力の干渉と、ごく少数の台湾独立分裂勢力と分裂活動」と付け加えています。つまり、統一の対象である「広範な台湾民衆に向けたものではない」と強調した点がポイントです。「武力統一」と「武力行使」を混同しているのが、メディアの誤解の始まりだと思っています。「武力統一」を容認したのではなく、米国や台湾独立派に向け、「武力行使」を否定しない「強い姿勢」を改めて示したのが今回の報告の狙いだと考えています。

◆沖縄国際大学沖縄経済環境研究所・泉川 友樹特別研究員

日本経済界、偏りのない「生」の中国情報に接したい 

 3万字もある報告ですが、中国がこれまでの5年、10年の取り組み、また今後の計画を述べる分量だということを考えると、それほど長くもないかなという印象でした。

 報告によりますと、過去10年、中国のGDPは54兆元から114兆元に、一人当たりの国民所得は約4万元から8万1000元に上昇しました。私のような1979年生まれで、改革開放が始まってから中国とかかわるようになった人間からすると、こうした発展が若者達にどれだけ夢を与えているかという点で、羨ましいと率直に感じました。

 また、「中国式現代化」という言葉が印象に残っています。西側の近代化は、科学技術とか工業の発展が牽引しましたが、その中で戦争があったり、植民地ができたり、貧富の差が拡大したり、物質のことばかり追い求めて心の問題が疎かにされたなど、いろんな問題もある現代化だという認識を示しています。それが今、世界が現在抱えている課題でもあると私はみています。中国としては、そういった問題をちゃんと見て、そういう道を歩まない現代化を提唱しているわけです。

 経済の面では、保護主義に反対し、真の意味でのグローバル化を支持するという姿勢を表明しています。中国が発展途上国と先進国の両方の考え方が分かる国として、本当の意味でのグローバル化を進めたいと感じていると私は思いました。

 岡田さんは日本メディアの偏りについて指摘しましたが、日本の経済界の方達は自分たちが知りたい情報がなかなか既存メディアから入りにくく、判断する材料を欲しがっていると私はみています。そういう意味では、中国から日本語で届く生の情報は、非常に重要な存在だと思います。

(つづく)

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