北京
PM2.577
23/19
秋の気配が深まりつつある北京。9月最終週の土日に市内のデパートで、「天空」と題した華展が行われました。池坊北京華月スタディグループの代表を務める堀江森花さん(60歳)と中国人弟子たちによる56点の作品が、空や自然の写真と共に会場を飾っていました。生花、立花、新風、自由派……仏前供花のような伝統的な形もあれば、現代美術のインスタレーションを彷彿とさせる作品もありました。
今日の番組は展示会場で見聞してきたことをお届けします。
(左)華展「天空」のポスター (右)会場の様子
「この天空の下では、たとえ会えなくてもどこかで誰かとつながっています。この華展は、家族や友人への思いや世の中の無事と安寧への願いを表現するものです」
「天空」のポスターに書かれたメッセージです。
会場入口の展示
主催者代表の堀江森花さんは兵庫県出身の日本育ち。父親は「敵国の子どもにもかかわらず、日本人残留孤児を育て上げた中国人」という存在に心打たれたことをきっかけに、「日中友好」をライフワークにし、地元の日中友好協会で活動を続けてきました。父の影響を受けて、堀江さんは1981年に留学生として北京へ渡りました。やがて北京出身の中国人研究者と結婚し、しばらく日本で暮らしていましたが、一人っ子として年老いた両親のことを思う夫に伴って、2005年に生活拠点を北京に移しました。
来場者に作品を紹介する堀江森花さん(中央)
新しい環境で、華道を生かした何かができないかと、模索の日々が続きました。そんな折に、花屋を開くという中国人の知人から「教えに来てくれないか」と誘われ、堀江さんはその店内で華道教室を開くことになりました。2009年のことでした。
当時は生け花の概念はまだなじみが薄く、花材も道具も豊富ではありませんでした。習いに来る学生も少なく、そのような状態が3年も続きましたが、やがて転機が訪れました。
「お花は生活必需品ではありません。経済的にも気持ち的にもゆとりがないと普及していきません。経済の発展と共に、気持ちの安らぎ、仲間との出会い、誰かに何かを伝えたいというニーズが高まっていきます」
展示作品の一部
経済発展に伴い、中国では近年、物質よりも精神的な充足を求める人が増えています。その一環として、お茶をたしなむブームが起こりました。そして、お茶の空間に花を飾ったり、お香を焚いたりするニーズが高まったことで、堀江さんの教室でも「生徒が生徒を連れてくる」ようになり、弟子の数は30人を超えました。主婦もいれば、金融業、美術教師、文筆家、映画監督など、様々な職の若者がいます。その共通点は、花や植物が好きで、中国の伝統文化に興味があるということ。初期の弟子の中には、独立して自分で華道教室を開いた人もいます。そして三年前に、北京にある三つの教室が連携して「池坊北京華月スタディグループ」が発足しました。今回の「天空」は同会による初めての華展です。
出展者のみなさん
「花は人なり。お花を通して何か人にしてあげられることがないか。テクニックではなく、人を思う心、花を思う心なのです。そういうことを、教えるのではなく、共有できたらいいなと思っています」
堀江さんを中国と結びつけた最愛の父はこの3月に亡くなりました。
「父は自分がやり残したことを私に託したのかな、という思いもあります。中国の皆さんと一緒に作り上げたこの華展のこと、父はきっと天国から微笑んで眺めてくれていると思います」
そこまで話すと、さっきまではずっと笑顔だったその目に涙がこみ上げ、真っ赤になっていました。そして、次のように付け加えました。
「花を見て怒ったりする人はいません。皆が笑顔になります。中国の人も日本の人も、お花がある場面でリラックスして語り合ってほしい。そういう、地に足のついた交流のお手伝いが出来たらいいなと思います」
詳しくは番組をお聞きください。
(構成:王小燕 校正:梅田謙
写真提供:池坊北京華月学会)
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