北京
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北欧神話の美と愛を司る女神から名付けられたセイウチの「フレイヤ」は5歳前後の若いメスで、体重は600キロほど。2019年にノルウェーの首都オスロの入り江で初めて見つかり、その後、イギリス、デンマーク、スウェーデン、オランダなどの国の沿岸でさまよっていた。一般的に、セイウチの寿命は40年前後で、若いフレイヤは何らかの原因で母親とはぐれ、迷子になったとみられる。
今年7月17日、フレイヤはオスロ南東部のオスロ・フィヨルド湾に出没した。ほかのセイウチと違って、フレイヤは人を怖がる様子を見せず、鳥を捕まえたり、漁船の上で昼寝したりと爆発的な人気を呼んでいた。フレイヤの写真や動画を撮るため、餌を投げ込んだり、一緒に泳いだり、至近距離まで近づいたりする人が相次いで目撃された。
これに対して、ノルウェーの漁業総局はフレイヤに近付かないよう勧告を出したが、それ以外にはフレイヤを人の少ない海域へ誘導したり、隔離フェンスなどを設置して人々がフレイヤに近づかないよう工夫するなど、具体的な措置は何一つ講じなかった。残念なことに、政府の勧告が守られなかったため、8月14日午前、ノルウェー漁業総局はフレイヤを安楽死させた。「動物愛護は大いに尊重しているが、人命と安全を優先しなければならない」と説明したが、動物愛護団体から批判の声が上がっている。
ノルウェー南東部大学の生物学研究者ルネ・アエ(Rune Aae)教授はここ数年、目撃情報に関するグーグルマップを利用してフレイヤの行動に注目していた。アエ教授の話では、セイウチは通常、グリーンランドやスバルバード諸島などの北極圏に近い氷上で何百頭もの群れで生活しているが、フレイヤは何かの理由で迷子になったという。しかし、彼女の活動路線を見ると、生息地の北極圏に戻る途中だったとみられている。「人間は彼女の里帰りに何の助けもしなかったどころか、彼女を殺した。これは本当に恥ずかしい」とアエ教授は悲しみを隠せず、フレイヤへの殺処分は「極めて軽率で粗暴なことだ」とFacebookに批判文を投稿した。
また、フレイヤの安楽死はSNS上で大きな話題となり、人々の怒りを招いた。あるネットユーザーはフレイヤの活動マップを共有して、「フレイヤは多くのヨーロッパ国家で現れたが、人と仲良しで、一度も人を傷付けたりしたことはない。安全からの理由で彼女の命を奪ったことは、野蛮な殺害だ」と訴え、「無能な政府と勧告を無視した身勝手な人々がフレイヤを殺した。謝罪すべきだ」と呟いた。
また、多くのネットユーザーは1年前、中国で15頭のアジアゾウの群れの謎の移動を思い出した。
2020年末、15頭の野生アジアゾウは中国南西部の雲南省シーサンパンナ(西双版納)タイ族自治州の自然保護区を離れ、北へ移動し、市街地にまで接近した。ゾウの群れが無事に保護区に戻れるように誘導するため、地元政府は1万人以上の警察官やスタッフを派遣し、24時間体制でゾウの移動路線を観察し、ゾウに道を譲るため、沿線住民延べ15万人以上を避難させた。そして、17カ月後、1300キロの旅を経て、ゾウの群れは無事ふるさとに戻った。この異例の旅で、ゾウの群れは大小さまざまな破壊事件を400件以上起こし、経済損失は700万元(約1億5000万円)近くにも上る。農作物がゾウに食べられた農家の人は「今年の収穫は台無しになっても、来年はまた収穫できる。お腹いっぱい食べて、早く家に戻ってほしい」と微笑みながらゾウの帰り道を見守った。また、中国政府はゾウ被害のための保険を購入し、ゾウの群れによる国民の損失はすべて国が負担することになった。
中国の野生アジアゾウは無事ふるさとに戻ったが、ノルウェーの人気者のセイウチは殺処分された。中国と西側の野生動物に対する態度はどれほど違っているのか。
長い間、西側諸国や西側メディアはいつも道徳の高地から中国のことについてあれこれ口を出して批判しがちだが、どうして自分を省みなかったのか。「生命第一」の徹底された感染症対策にしても、地道な生物多様性の保護にしても、中国人はすべての生命に対して尊重と畏敬を持っている。人間と自然の調和の取れた共存――これは古き良き中華文明が数千年以上も続く偉大な知恵と実践によるものだ。一方、西側諸国はどうであろう?フレイヤの死は再び西側の偽善を暴いた。見かけの理由はいくら立派であっても、背後に隠された身勝手で冷酷な一面こそがその真相なのである。(CRI日本語部論説者)