「共同富裕」への一歩は高齢者ケアの充実〜浙江省寧海県の取り組みを例に

2022-04-07 20:10:58  CRI

 春うららかな3月下旬、海に近い街の小さな農園でジャガイモの植え付けが行われていました。作業をしているのはいずれも高齢者たち。我先にと農具を手にし、談笑しながら畑を耕し、あっという間に作業を終えてしまいました。

 ここは、浙江省寧波市寧海県の「一市鎮高齢者ケアセンター」です。統廃合で廃校となった小学校をリニューアルして2020年11月に開業した高齢者施設で、農園があるのは小学校の運動場だった場所です。


一市鎮高齢者ケアセンター・ミニ農園での作業風景(写真提供:孫毅氷)

 一市鎮高齢者ケアセンターの入居者は40人ほどですが、周囲の村に住む60歳以上の高齢者1800人すべてがケアの対象となっています。リクエストに応じて、家事手伝い、フードデリバリー、買い物代行などを行っています。

 浙江省ではこうした高齢者ケアセンターの充実化が、地元行政のサポートによって進められています。

 ■介護理念の変化 生きがいをより重視するケアへ

 「粗末な住環境に、重労働。それに、出稼ぎにでた息子や娘に代わって孫の面倒を見る高齢者や、一人暮らしの孤独な高齢者も多い」

 農村部の高齢者の現状についてこう話すのは、一市鎮高齢者ケアセンターの黄雪娜院長です。黄院長は「高齢者にストレスを解消してもらい、やる気や生きがいが感じられる暮らしを送ってもらいたい。そのためのお手伝いをしたいのです」とも話してくれました。


一市鎮高齢者ケアセンター(写真提供:孫毅氷)

 このケアセンターには、理容室、ゲートボール場、カウンセラー室、麻雀室、食堂など、様々な設備があります。天気がいい日には付近の村落からもお年寄りが集まってきて、中庭でおしゃべりしたり、歌ったり、麻雀をしたりと、思い思いに過ごしています。また、ケアセンターは野菜栽培やゲートボールなどのイベントを実施していて、これらに参加するとポイントがもらえます。このポイントは、施設内の売店や食堂でお金の代わりに使える仕組みとなっています。お年寄りが自ら進んで足を運びたくなるような創意工夫が、この施設の特徴です。

 このような、高齢者ケアの分野に吹き込むイノベーションの新風について、中国サービス貿易協会で人口高齢化対応業務を担当する史偉副主任は「これまでは、『高齢者全員がケアの対象』という考え方でした。それが今は、必要以上のケアはせず、自力でできることは自主的にやらせる、という考えが広がりつつあります。行政や施設が本人の自立性をサポートすることで、健康寿命を延ばそうという考え方です」と話します。

 史さんはまた、中国の高齢者ケアに求められているのは、「老有所学、老有所為、老有所創」(生涯学習、社会参加・生きがい、創造力・社会貢献)の環境を整え、生きる気力を引き出し、前向きな心構えで暮らしていけるようにするためのプロフェッショナルで総合的なサポートだと指摘しています。


一市鎮高齢者ケアセンターの中庭に集まった高齢者たち(提供写真)

■日本の「高齢者の自立支援」に学ぶ

 寧海県は効果的な高齢者ケアのあり方として、国際交流を重視しています。現地に進出している日系企業の助力によって、同じく海辺にある日本の富山県氷見市と友好交流都市提携が締結されたのをきっかけに、高齢者介護に関する交流も始まりました。

 コロナ禍で相互訪問がままならない中、この春も、双方の高齢者福祉の関係者らは、「高齢者の自立支援」と「農村部の高齢者ケア」をテーマにした交流会をオンラインで開催しました。

席上、氷見市の社会福祉法人「萬葉の杜」の経営者らによる利用者本位、選択の尊重などの介護理念、認知症高齢者とのコミュニケーションスキルや自立支援に向けたコーチングについての紹介に、中国側の参加者らが聞き入りました。

オンライン交流会の様子

 コロナ前に氷見の高齢者施設を二度訪問したことがある黄雪娜院長もこの日、交流会に参加しました。

 「日本は高齢者ケア分野で30年余りの経験があり、学べるものがたくさんあります。二度の日本訪問と今日の交流会を通して最も感銘を受けたのは、日本の介護現場におけるディテールへのこだわり、きめ細やかな配慮、笑顔を絶やさないサービスです」

 黄さんは、「高齢者ケアの究極の目標は、モノの提供よりも、高齢者の方々の思いに応え、皆さんがあこがれるライフスタイルを提供し、向上感、充実感、幸せを感じてもらうことにあります」と話し、今後も日本の先進的な理念をどんどん取り入れたいと、学びの姿勢を見せています。

 交流会に北京から参加した史さんは、「高齢者の自立支援」という日本側の考えに強い賛同の意を示して、とりわけ、日本の介護現場で行われている「労・学・遊の一体化」の取り組みを高く評価しました。特に農村部の高齢者ケアにおいては、医療、介護、介護予防、住環境、生活支援を一体化した仕組みの構築が大事だとも訴えました。


一市鎮高齢者ケアセンター・昼食の風景(写真提供:孫毅氷)

■高齢者ケアは「共同富裕」の欠かせない一部に

 中国人の平均寿命は2020年に77.9歳に高まりました。総人口に占める60歳以上の人口の割合は、2021年には18.9%に達して、特に農村部ではその割合が23.8%に上り、高齢化率の加速は今後も予想されています。

 そんな中、国務院は今年2月に発表した「第14次五カ年計画国家老齢事業発展と養老サービス体系計画」の中で、農村部の高齢者ケアが弱みだと指摘し、その解消に向けた施策を明らかにしました。共同富裕という新たな道のりを歩み始めた中国にとって、農村部の高齢者ケアのレベルアップは、今や国家戦略に位置付けられていることを物語っています。

 「今後はモノ、金、人材面でより多くの傾斜政策が導入される。それにより、農村部の高齢者ケア事業はより充実していくでしょう」と、史さんは楽観的に見通しています。

(記事:王小燕、校正:梅田謙)

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