時代背景:
戦国時代、趙の国では王が亡くなりました。即位した新しい王は年が若く、まだ少年でした。幸い若い王の母親はとても才能がある女性で、王に代わりまつりごとを処理しています。政権交代によって趙国の政治がいささか不安定な時期を狙って、秦は趙へ侵略戦争を仕掛け、一挙に三つの城を占領しました。非常に危ない情勢となったため、趙は仲のいい斉の国に、支援を要請しました。しかし、斉の国は「支援を承諾するが、ただし、条件がある」として、趙太後の末っ子、長安君を人質として斉に送ることを求めます。趙太後は長安君を非常にかわいがっていますので、どうしても許可せず、国の情勢はいっそう危うくなっていきます。大臣触龍がこんな時に、太後を説得し、最愛の末っ子を人質として斉に行かせ、趙の危機を脱しました。
物語:
趙太後が政権を握ったばかりの時のことです。秦は趙を攻めてきたので、趙太後は斉に救援を求めました。斉は長安君が人質になることを求めて、出兵を控えていました。趙太後がこの条件を承諾しないため、大臣たちは極力諫言をしようとしています。太後は激怒し、「今後、誰かまた長安君を人質に差し出そうと言うなら、その顔に唾を吐いてやりますぞ!」と、周りの人に話しました。
大臣触龍が太後に謁見したいとの願いを伝えました。太後は、また嫌なことを言う人が来ると、怒りを隠さず、硬い表情で待っていました。触龍は小走りに太後の前に来て謝りました。
触龍:「私の足は調子が悪くて、走ろうと思ってもできません。長い間お目にかかることができませんでした。自分で自分のことを許したいのですが、太後のお体の調子はいかがなものかと、お伺いしたくて参りました。」
太後:私はひたすら馬車に座っているわ。
触龍:毎日のお食事のほうはいかがでしょうか。量が減ったりしませんね。
太後:ただお粥ぐらい食べてるよ。
触龍:私はぜんぜん食欲がありません。ちょっと無理して毎日歩くようにして います。そうすると、次第に食欲が少し出てきて、体もすっきりしました。
太後:私はできません。
そういいながら、太後の顔色がいささかよくなりました。
触龍:私の末っ子は、舒祺と言いますが、若くて才能がありません。でも、私は、かわいがっていますので、黒い制服を着る護衛官になって、皇宮を守るように願っています。厚かましいお願いですが、そのために参りました。
太後:いいですよ。おいくつですか?
触龍:15歳でございます。まだ小さいですが、私が死ぬ前に太後に託そうと思っております。
太後:あなたたち男性も末っ子を甘やかすんですか?
触龍:女性よりも度が過ぎます。
太後:それは違うでしょう。女性のほうが子供を甘やかすのよ。と言いながら笑顔を浮かべました。
触龍:個人的に思いますが、太後は長安君より、燕の国に皇后として嫁いだ姫様のほうを可愛がっていると思います。
太後:それは違うわよ。長安君ほど可愛がっていません。
触龍:親として、子供を愛するなら、子供たちの将来を考えてあげなければなりません。姫様がご結婚なさって、燕の国へ旅立った時に、太後は姫様の足首にすがって泣きましたね。遠い国へ嫁ぐお姫様を心配まさっているからです。しかし、お姫様が行かれた後、太後は、祭祀の時に、必ずお姫様のためにお祈りになっています。「どうか、姫が追い払われないように」。これはお姫様の将来を考えて、燕の国で多くのお子様を生み、子孫代々、王座に付くよう、願っていると思いますが、違いますか?
太後:そのとおりです。
触龍:今から3代前に、いや、趙の国が樹立した時にさかのぼってみて見ますと、侯爵になった趙の君主の子孫は、その家柄を守った子孫の子孫はいますか?
太後:ないわね。
触龍:趙だけではなく、他の諸侯国の君主の子孫に、家柄を守られた後継者がいますか?
太後:うん、確かに聞いたことがないわね。
触龍:なぜなら、災いは早ければ侯爵たち自身に、遅ければその子孫に降ってきます。これは、君主の子孫が皆、能力がないからではありません。彼らの地位は非常に高いものの、国のために何の功績も立てたことがありません。給与が高く、国の権力を示す宝物をいっぱい所有しているものの、何の貢献もしていないからです。今、太後さまも長安君に高い地位を与え、肥沃な土地と莫大な財宝を賜りました。このようなチャンスをつかんでも、国のために手柄を立てさせなければ、将来、太後さまが亡くなった後、長安君はどうやって趙の国でその地位を保つのでしょうか。ですから、太後さまが長安君を優遇することは、将来のことをあまりお考えになっていないことになります。だから、長安君よりもお姫様のことを可愛がっていると思います。
太後:わかりました。長安君の件、お任せします。
すると、趙国は長安君に100台の馬車を用意して、人質として斉に送りました。斉はようやく軍隊を繰り出し、趙の危機を救いました。
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