こうして六十近くになっても足腰のつよい汪おばさんは、山を越え川を渡り、途中は宿に泊まり、二日後には大きな長江にでた。
「うひゃあ。なんと広い川なんだい。すごいね。どうやって渡ったらいいのだい」と汪おばさんが一休みしながら困っていると、川の真ん中から一隻の舟がゆっくりこちらにやってきた。見ると舟には十何人が乗っていて近くの岸辺で降りている。
「あら、あれは渡し舟だね。よかった」
と汪おばさんは舟に歩み寄って乗り込んだ。が、船頭のじいさんは舟を出さない。ほかの客を待っているのだと気がついた汪おばさんが、黙って座っているとじいさんは煙管を吹かし声をかけてきた。
「そこのお客さん、親戚の家にでもいくのかい」
「ああ、そうだよ。私の義理に息子を訪ねに行くのさ」
「へえ!義理の息子さんは何をしているのかね」
「あ、息子はこう、こう・・・」
汪おばさんは不意に、ここでほんとのこといっても何もならないと思い、「ある店で働いているのさ」と答えた。
さて、しばらくて他の客も舟にのったが、船頭のじいさんはまだ舟を出さない。これに汪おばさんは、「まだ舟を出さないのかい。もうすぐ昼になるよ」という。船頭のじいさん、これを聞き、「そうだな。客はこれぐらいだろう」と舟を出した。
こうして舟は川の真ん中に来たが、そのとき、これまでおとなしかった鵞鳥が首を伸ばして川面を見た。そして急に暴れだしたので、縛っていた縄がなんと解けてしまい、汪ばあさんがあわてて抑えようとする前にボトンと川に飛び下りた。こうして鵞鳥を捕まえようとした汪ばあさんの両手には何本かの羽が残っただけ。これに船頭のじいさんと他の客もびっくり。
「おばさんよ。あぶねえじゃねえか。川に落ちたらどうするんだい?流れも速いし、下手したらお陀仏だぜ」
と船頭の爺さんが言っていると、舟が大きく揺れ、その弾みで椅子の上の置いていた徳利が落ちて蓋がとれ、中の酒が流れ出た。これに汪おばさんが、あわてて徳利を拾ったが、もう遅く、徳利の中は空。
「ああ、くやしいね。いったい今日はどうしてこうも運が悪いんだよ。いまいましい!!」
そこで汪おばさんは、船頭のじいさんをにらみ、「これもこの舟が悪いんだよ。船頭さん、鵞鳥とお酒を弁償してくれ」という。これに船頭のじいさん、いやな顔をした。
「なんだと?わしに弁償しろだと?鵞鳥はこんな大きな川を見れば水に飛びたくなるのは当たり前だ。徳利はそんなところに置いとくからいけないんだよ」
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