いよいよこの旅も終盤を迎えています。
私たちは、古き良き文化を残すブ源を離れ、景徳鎮へ入りました。
景徳鎮と言えば、地名というよりは、陶磁器を表す言葉として有名ですね。
しかし、陶磁器の里はひとまず置いておきます。
朝食を終えた私たちは、朝の散歩にでかけました。
瑶里国家森林公園です。ここは、ほとんど人の手が入っておらず、原生林を見ることができます。樹齢500年、600年の木があちらこちらにあります。樹齢1000年の大木も珍しくないそうです。まだ太陽の光は弱く、山の木々たちもまだ目覚めていないようです。鬱蒼と茂った林の中を進んでいきます。
木の板を敷いて釘で止めただけの簡素な遊歩道は、歩くとギシギシと音を立て、やや不安がよぎります。しかし、それがかえってこの探険を盛り上げます。開発が進んでいるところは、歩きやすいし便利な歩道ではありますが、全体の景観を壊してる場合も少なくありません。しかし、ここは、その古びた感じがなんともいい雰囲気をかもし出しています。
ガイドさんに、「南酸棗という木」について教えてもらいました。なんでも木にも男と女があるのだとか。太い木のほうが、男で花は咲かせても、実はつけないんだそうです。
ここには、ちょうど、男の木と女の木が仲良さそうに並んで立っています。
南酸棗。これは男性の木だそう
しばらく行くと、川のせせらぎが聞こえてきました。幅1メートルほどのつり橋がかかっています。
気がつけば、人気のなかった森林は、あっという間に観光客でいっぱいです。つり橋をわざと、揺らして渡る人もいて、静かな山の中に楽しげな声が響きます。
日本では、こういう場面を見たら、渋い顔をする人もいるかもしれませんが、中国では、大人も子どものようにはしゃぎ、素直に楽しみます。日本人が森林浴といって、山のエネルギーを吸収しようとするのに比べて、中国人は自分の中にたまったエネルギーを発散しているようです。内に向かう文化と外へ向かう文化の違いでしょうか。
さて、実は今回は時間の関係で行けませんでしたが、山の上のほうには、見事な滝があります。遠くからでも見えるので、相当の大きさです。山水が豊富に流れ、
人里に多くの恵みをもたらしています。
左上の白い部分が滝
ここは、中国でも有名な茶どころでもあります。ちょうど今は新茶の季節です。散歩の休憩に、さっそく今年の新茶をいただきました。
グラスの中で少しずつ新茶の葉が開く
さあ、本日の第二弾、景徳鎮です。
現在、制作をしている場所ではなく、陶磁器文化を伝えるためにつくられた、景徳鎮古窯民俗博覧区を訪ねました。
ここの環境は素晴らしいです。現代的な建物ではなく、昔ながらの白い塗り壁と黒い瓦屋根の小屋が並んでいます。傍らには、窯の火を入れるために使う、松の木が積み上げられています。現代的な道具は一つも見当たりません。作業場に入ると、天日に干された素焼きの茶碗が並んでいました。
景徳鎮古窯民俗博覧区
青空にひときわ輝く真っ白な茶碗
作業場では、高い技術をもつ陶工たちが、作業をしていました。景徳鎮の手作業による陶磁器制作は、職人たちが何十年もの時間をかけて、身につけたものです。器は成型、乾燥、絵付けなど72もの工程を経て完成します。この工程は、2006年に無形文化遺産に指定されました。今は、名工と呼ばれる陶工たちの顔写真が貼られ、名前と経歴が紹介されています。しかし、その昔は名もなき、多くの職人たちが、ただ黙々と自分の技を磨き、極めたのでしょう。そして、そのパワーが国内のみならず、国外までその景徳鎮の名をとどろかせたことを思うと、どれほどの人の力がここに費やされたのか。毎日、毎日、新しい一品を生み出すために、地道な努力をしたに違いありません。
目の前で作業をしている名工たちの様子を見て、ふとそんなことを考えました。簡素な小屋で、泥にまみれながら焼き上げた陶磁器が、海を渡って、ヨーロッパの貴族たちの豪華な部屋を飾っていたんですね。果たして当時の陶工たちはこのことを知っていたのでしょうか。
彼らに、現代もなお、景徳鎮は、その地位を守り続けていることを伝えたいような気がします。
慣れた手つきで絵付けをする女性職人
写真入りで、名工が紹介されている
最後に私たちを迎えてくれたのは、陶磁器で作成した楽器による演奏です。
チャイナドレスを身に着けた女性たちが、軽やかに音を奏でていきます。
陶磁器から発せられる音は、ガラスとも金属とも違う、やさしい響きです。
聞けば、陶磁器で音階をつくるのには、苦労したそうです。
女性が手にしているのは陶磁器製の二胡
この旅の間、わたしたちはずっと緑に囲まれて過ごしました。雄大な山に登り、古き良き伝統を守る村を訪ね、昔ながらの陶磁器制作の現場を見ました。改めて生活、労働、喜びというものを考えました。旅に出て、新しい発見をするつもりが、自分の中にある懐かしいものに再び出会い、思いがけず再発見の旅となりました。(文・写真/吉野綾子)
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