「そうですね。では、正岩さんにとって、京劇とはなんですか?」
彼はこの質問を聞いたとたん、口をつぐみ、少し考え込みました。そしてまた笑顔をみせると、こう答えました。
「宿命です」
ごく簡単な答えのようですが、私は別の意味も込められているような気もしました。
「(京劇は)歴史が僕に持たせた責任とも言えるし、僕の宿命だと思います。知っての通り、僕の家(譚派老生)は僕でもう7代目で、これからも受け継いでいかなければならないと思います。こういったことは誰も教えてくれませんでしたが、子供の頃からすでにわかっていました。しかも、もしこれを続けることができたら、僕は絶対に偉い人になれると思っていたんです。ただ、本当のことをいうと、僕は初め京劇に興味を持っていなくて、学んでいたのも京劇ではなく、武術でした。ある日、武術のクラスに通う途中、父(譚孝曾)の兄弟子とたまたま会って、わけがわからないまま、僕は、兄弟子が担当している子供向けの京劇クラスに入れられてしまったんです。その後1991年、北京劇曲学校の入学試験に受かって、正式に京劇の世界に入ることになりました」
「では京劇が好きではなかったとか?」
「最初はそうでした。祖父(譚元寿)と父(譚孝曾)も強引に勉強させようともしませんでした。これは、自ら選んだ道です」
「今は好きになりましたか?」
「どうかなぁ、最初の頃と比べると楽しめるようになってきたというか……」正岩さんは息をつくと、幸せそうな顔で続けます。「京劇をするのは僕の責任ですが、絶対に負担に感じるようなものではありません。僕の姓は『譚』です。『譚』という姓を名乗る以上僕しか負うことができない責任があるということです」
なぜだか、目の前にいる彼が急にきらきらと、輝いて見えるような気がしました。
「僕はかつて日本に行ったことがあって、日本大学で京劇の化粧法について話をしたことがあります。そのとき日本語をほんの少し教えてもらいました」と正岩さんは照れくさそうに笑いました。
「それでは、正岩さんにとって、今一番やってみたいことはなんですか?」
「結婚することです」
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