<第一部 北京五輪を振り返って>
燕:北京五輪が終わって一週間経ち、まだ余韻に浸っている方も多いかと思います。まずは、北京五輪のご感想をお聞かせください。
井村:
【七回目の五輪参加】
すばらしいオリンピックでした。別に、北京にいるからではなくて、本当にすばらしかったと思います。
私にとっては、今回は七回目の五輪です。今までの中であらゆる面ですばらしかった。施設などのハード面、建物もすばらしいですが、やはり何がすばらしかったかというと、人がすばらしかった。
【ボランティアを絶賛】
特にボランティアの方々がとてもすばらしかったです。私はシンクロなのでウォーター・キューブ、「水立方」で試合をしました。施設はもちろんすごいし、運営自体もまったく混乱がなく速いし、問題なし。選手とコーチは試合で神経質になっているのですが、見守って下さるボランティアの方たちは誰一人嫌な顔をされなかった。そうしたボランティアを見たことがないですね。みんな選手やコーチは試合に没頭してますから、逆にいやな思いをされるボランティアの方があったんじゃないかと思いましたが、それに対してまったくいやな顔をされないし、運営にもすごく配慮があるんですね。コースロープ一つ上げるにしても、選手の頭に当たらないように。そして、ウォームアップの時にも、少しでも自分が持っている時間にウォームアップしたいわけですよ。それにできるだけ対応して下さった。それがすばらしいです。ボランティアの方も、私が今まで見た中で一番すばらしいボランティアだったと思いますね。
【開会式の感動】
それと、私も中国選手団として開会式に参加させていただきました。私は自分が初めて出た84年、ロサンゼルスの時は、オリンピックの開会式を歩いて感動したんですね。うゎーすごいなぁと。
で、開会式を歩くと何が分かるかというと、戦争はいけないよ、人種差別はいけないよ、みんな同じ人間じゃない!ということ。これは無言のメッセージで分かるわけです。世界は平和であるべきだ、同じ人間が人を殺してはダメとか、争いはダメとかが全部分かる。そういうことに感動しました。
でも、今回、やはり7回目となると、いろいろ冷静な自分がいました。中国のシンクロの選手たちは今回初めて開会式に参加しました。これまでは、いつも試合だけに出て開会式に出なかったので、彼女たちをその感動に連れて行きたくて、私がお願いしました。
燕:開会式に参加することは、試合の成果にもつながると思ったからですか。
井村:つながりますし、「私はこんなすばらしい大会に出るんだ」という気持ちにもなりますし、特に私たちは人に見られる採点競技ですから、大事なんですね。私は7回目で冷静で、今度はどんなオリンピックになるのかなと考えていました。ホスト・カントリーですから、最後に出ていきますよね。メインスタジアム横の体育館から歩いていく間に、ボランティアの方がみんな並んで「中国加油!」って応援してくださるんです。その言葉が、その声が、本当に国を愛しているし、口先だけでなく、本当に心から頑張ってくれという団結力を感じたんですね。あのゲートを、メインスタジアムを歩く前までに、もうみんなその声に感動して、シンクロの選手が私の顔を見て、もう鳥肌が立つというわけですよ。私も鳥肌が立ちました。みんなが本当に誠心誠意、心をこめて声を枯らして「中国加油!」って応援してくれる中、その花道を通って、メインスタジアムへ出て行った。そこで中国の選手団みんなが感動していたと思います。
燕:ボランティアに感動した、そして中国選手の情熱に感動した、と。
井村:それと成功させようという団結力。やっぱり中国は大きい国。何でも大きかったです。食堂も大きかったから混乱もなかったし、選手村の施設も最高に良かったです。対応もすばらしくて、実は選手村に着いた初日、夜中の1時頃にシャワー浴びていたら、シャワーが止まらなくなってしまいました。しかし、24時間体制で対応してくれて、すぐに飛んできてくれました。それはすごいですし、私たちが泊まっている選手村の入り口にも、何かが起こったらダメだから、ボランティアの方が24時間いてくれて、そういう面でもすばらしかったと思います。
で、みんながすばらしかった、という声をいっぱい聞かれたと思いますけど、たぶん「これは嘘じゃないかなぁ」と思われてると思いますが、嘘じゃないです。7回目の参加の私が言いますから。本当にすばらしい施設でしたけれども、それに関わってくださった人がすばらしかったです。感謝しています。
燕:李監督にとっては、今大会は、ソフトボールや野球が最後の試合で、次期大会では正式種目ではなくなるので、やっぱり特別な思いで、ご覧になっている部分があったのですか?
李:もちろんそうです。今の井村監督が言われたように、すごく成功したオリンピックでした。でも、そのなかで野球とソフトボールが次回なくなることについて、ちょっと寂しく感じております。でも、その次から、またアメリカもしくは日本で開催される場合、野球とソフトボールがまた戻ってくることを強く望んでいます。ソフトと野球は中国にとってはまだ普及していない種目ですから、今回の五輪は、始めのうち、野球とソフトボールを見る観衆が少なかったですが、試合を重ねていくうちに観衆がどんどん増えていきました。非常に良いスポーツだという認識が皆さんにあるように感じています。
燕:李監督は、現在、中華全国体育総会の顧問も務めておられるということですが、ソフトボールや野球に限らず、今回のオリンピックを総括していただくなら、どのような大会だったのでしょう?
李:そうですね、今回のオリンピックは世界が中国を認識した、中国が世界を認識した、両方の効果がありました。それから、成績としても、世界記録がどんどん更新されて、中国代表団も多くの金メダルを獲得して、まあ、歴史にないいい成績をとりました。それはホスト国という関係もありますけれども、中国の国民、国全体のオリンピックに対する熱意と意気込みが感じられる成績でした。もちろん、皆さんご存知のように、メダルは100個獲得し、金メダルが50個以上というのは、以前にはなかったことです。大変な記録だと思います。
燕:全体的に、スポーツの発展の視点から見て、物足りないなと感じることは?
李:体育会のリーダーも皆さんもこのことについて全体に同じような認識があるんだと思いますが、中国のスポーツ全体が、一番基礎である陸上競技とか、水泳とか、団体のボール種目が弱い。というのは、スポーツ全体の力がまだ足りないという認識が、皆さんにあると思います。それは実際の問題です。もし、そういう方面で、陸上や水泳など、基礎的な種目で中国がどんどん強くなったら、もっと発展すると思います。
燕:そういう意味で、中国にとって、好成績を挙げた一方、れからの大きな課題も出した大会だったのですね。
さて、毎日、ほとんど、朝から晩まで、競技場で取材にあたっていた姜平記者は、改めてどのように振り返りますか。
姜:なによりも「出会い」です。取材を通して、様々な感動した出会いがありました。北京空港で、その辺を歩いていた選手に、まず開会式への期待などを聞いてみたのですが、一週間後に、プレスセンターで配信した新聞をめくってみたら、カヌーで金メダルを取った選手だったとか。カヌーは中国人にとって、まだ、馴染みの薄いスポーツですし、金メダリストに事前に会えるなんて考えてもみませんでした。記者だけでなく、普通のスポーツ・ファンも、北京の町でメダリストたちに接することが出来たと思います。
また、女子レスリングの会場では、72キロ級で銅メダルをとった浜口京子選手のことを表彰式が終わるまで、じっと待っていた中国人の選手がいました。もう、退場した浜口選手を抱きしめて、キスまでしてしまいました(笑)。「浜口選手の大のファンで、今回はやっとアイドルに会えて感動した」と興奮していました。 1 2 3 4 5
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