鳥の巣で鈴木選手の応援の時に私の隣の席で一緒に応援した春田さんは鈴木選手と同様片足義足の短距離選手でした。100mを12秒5で走る春田さんは、今回の北京パラリンピックには惜しくも出場なりませんでしたが、私に競技用の義足やパラリンピックの競技会について語ってくれました。
春田さんはもともとスポーツマンで、膝から下を失った後も、スキーも普通に楽しめるぐらいになっていましたが、臼井さんから競技用の義足があることを知り、陸上競技を始めたそうです。
写真は春田さんが普段つけている義足で重さは2.5Kgあり、結構重いです。製作者の臼井さんの話では、人間の足だとこの部分で5Kgはあるそうで、足よりは軽いそうですが、筋肉がないので使う人にとっては相当重く感じるでしょう。春田さんはこれを装着したての頃は棒のように感じたそうですが、今では足の大きさの感覚もあるほどで、話を聞きながら私は人間の感覚の回復の素晴らしさに感心しました。
走る時には鈴木選手と同様のグラスファイバーで出来た特殊な義足に代えるそうです。その価格は80万円くらいするそうですが、補助金もあるそうです。しかし、驚いたことに今話題の南アフリカのピストリウス選手の装着している義足は数百万円するそうです。臼井さんの話だと、彼は膝から下の骨が長く残っているようで、強力な力を発揮できるのではと言うことでした。いずれにせよ、選手達は競技用を装着する時にはあのバネのような構造の反発をうまく使えるように工夫し、その動きが身につくには相当の努力と時間が必要だということです。
義足での生活は、慣れてくると日常生活にはほとんど支障はなくなってくるようです。しかし、足の裏のように柔らかく対応できないので、石が一つ転がっているだけで、踏んだ時にそれが支点になりバランスを崩すことがあるそうです。お話を聞いていると、隣に座っていた理学療法士をされている奥様も話しに加わってくれ、リハビリの方法や今後必要な用具などについても話をしてもらえ、とても勉強になりました。
写真 左が春田さん 右が臼井さん
オリンピック、パラリンピックともに日本のメディアはメダルの数を中心に報道しているようですが、中国のメディアはその背景にある技術やルール、歴史等を時間をかけて放送しています。特にパラリンピックについての報道はとても多く、毎日生放送と録画でほとんどの種目を伝え、車椅子をこぐときの有効な力の入れ方なども細かく解説しています。このような、地道な報道も各スタジアムを満員にして盛り上げることにつながっていると思います。
話を聞きながら、私はコーチの皆さんと選手との関係はオリンピック以上にパラリンピックは暖かいと感じました。選手たちがひのき舞台で最高のパフォーマンスを発揮できるように支え、その支えを全身で感じ、全力でがんばる選手達。それを見守り応援する家族や職場の皆さん。パラリンピックの日本チーム応援席はスポーツの本来持つ素朴で純粋な心で満たされた素晴らしい空間でした。皆さんの話を聞く中で、私自身もいつかパラリンピックのアスリートを支えるような研究をしてみたくなりました。
【プロフィール】
1957年生まれ 早稲田大学教育学部卒 筑波大学体育研究科大学院修士課程修了 専門スポーツは陸上競技 早稲田大学本庄高等学院 教諭 早稲田大学スポーツ科学部講師 2008年4月ー2009年3月 早稲田大学から北京大学への交換研究員
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