中国の自動車工業の発展について触れる場合は、必ずこの企業の名前を取り上げない訳には行きません。その創業は、中国の自動車工業のスタートを示しており、今でも、自動車業界できわめて重要な存在として活躍しています。それは、東北部長春市に本社を置く中国最大の自動車企業ーー「中国第一自動車グループ」で す。通称「イーチー(一汽)」。
中国を代表する車と言えば、まず頭に思い浮かぶブランドはやはり「紅旗」です。昔、中国を訪れる外国人は、大体三つの願いを抱いて中国を訪れたと言います。一つ目は、北京ダックを食べること。二つ目は万里の長城に登ること。そして三つ目が「紅旗」に乗ることだったそうです。「紅旗」はかつて、中国を代表する高級車でした。その「紅旗」を製造しているのが中国第一自動車グループです。そして、この会社のもう一つの代表的なブランドはトラックの「解放」です。「解放」トラックは中国が自主製造した初めての国産車でもあります。この二つのブランドは一時、「第一自動車」の代名詞にもなりました。
第一自動車グループの前身、長春第一自動車工場は中国初めての自動車工場として1953年に設立された後、1956年に初めて製造したのが「解放」トラックです。そして、二年後の1958年に、中国初めての乗用車、東に風と書く「東風」も「第一自動車」で誕生しました。でも、「東風」の生産量は少なく、すぐに生産が中止されました。それに代わって大量生産されたのが、高級乗用車の「紅旗」です。当時、中央の指導者から地方政府の指導者まで、「紅旗」を良く利用していました。「第一自動車」と言えば、中国の自動車産業全体のことを指す名前でもあった時代です。
工場を訪れた時に一番印象深かったのは、第一自動車の門でした。驚いたことに、門が道路を挟んで両側に二つもあるのです。「第一自動車」と言うのは、基本的に自動車の町みたいな所です。その門は、単なる普通の門ではなく、象徴的な意味を持たせた感じになっています。工場の入り口に着いた所、左側に一階建ての旧ソ連式の建物が立ち並んでいます。深い赤い色をした建物で、その建物の前に大きな石が置かれており、「中国第一自動車工場」という毛沢東元主席が書かれた字が刻まれています。歴史の古い工場だなという感じがしました。これは昔の門でした。そして、右手には、つまり昔の門の反対側には、二つの大きなビルとそれを繋げる巨大なコンクリートの板からなるとても現代的な印象を与える大きな門が立っていました。それが今の新しい門だと説明されました。ところで、第一自動車は、中国自動車産業の「長男」といわれた存在なので、かつてはライバルと言うものが基本的にいなかったわけです。でも、それは計画経済時代のことでした。
計画経済時代だと、計画通りに生産すればいい訳です。市場競争に如何に対応するかという考え方は全然なかったでしょう。でも、改革解放以来、計画経済から市場経済への転換期に入ると、昔の生産方式や技術レベルではだんだん付いていけなくなり、いきなりライバルが現れました。「解放」と「紅旗」、この二つのブランド車は厳しい情況に直面しました。特に1984年、「人民日報」に掲載されたある記事が「第一自動車」を谷底に突き落としたとも言われています。その記事は「紅旗のガソリン消費量はあまりにも多いので、中国の現状に合わない」と指摘したのです。この記事によって、「紅旗」の生産は中止せざるを得なくなり、第一自動車は窮地に立たされました。「紅旗」を生産停止ということは、「解放」トラックの売り上げだけで企業を維持するようになったのです。
でも、今から考えるとそれが良い転機となったようです。1980年代の半ばから「二回目の創業」とも呼ばれた技術面での革新を行ない、その成果として新型「解放トラック」が誕生したのです。今の市場経済時代では想像もできないことですが、それまで「第一自動車」では、新しい型の車を出さずに、30年もの間同じ型の「解放」トラックを生産し続けていたそうです。その時の革新はきっと大変な作業でした。会社の説明によりますと、投資総額は4億元、日本円にすれば、60億円でした。そして、革新に取り組んだ期間は1987年から3年間も続いたそうです。それによって、「解放トラック」は生まれ変わり、新しい型の車が次々と現れ、今は、六代目になりました。
自動車市場を制覇するには、トラックだけでは、力が弱いんではないですか。乗用車の方も何とかしないと。「紅旗」の代わりに、何か新しい乗用車を作る必要があるということから、1991年、ドイツのフォルクスワーゲンとの合弁で、生産量15万台の乗用車生産拠点を作りました。そこで作られた「アウディ」は今、政府機関に多く利用され、主力乗用車の一つになりました。また、2002年には、天津自動車工業グループを合併して、トヨタとの協力を実現させ、天津一汽トヨタ自動車公司を設立しました。そこの製品も乗用車が中心になっています。今、「第一自動車」の製品は、トラック、バス、乗用車など多分野に及んでいます。そして、製品の多様化に合わせて、単なる生産工場から、一つのグループ会社に変身し、規模は前よりずっと大きくなりましたね。
天津自動車公司みたいな大型国有企業を含めて、今までに、なんと26社の国内企業を合併し、すでに中国最大の自動車工業グループとなりました。第一自動車の市場はかつて、国内に限られた時期がありましたが、今は、海外市場にも進出しつつあります。その主力といえば、やはり「解放」のトラックですね。2006年の統計では、「解放」トラックは主にアジア、アフリカ、南アメリカなどの発展途上国に輸出され、二年連続世界で生産量と販売量が最も多いブランド車になりました。確か第一自動車は今、世界大手企業ベスト500社にランクされていると思いましたが、2006年、乗用車の生産量は100万台に達し、中国製造企業500社のナンバーワンにもなりました。「解放」トラックと「マツダ」の作業現場に案内してもらいましたが、きれいで、整然とした作業現場はとても印象的でした。それこそ時代の先端に立つ企業だというイメージを受け止めました。(傅穎)
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