すると、川面がいくらか騒がしくなり、許さんか杯を置いて網を引いた。するとどうだろう?一尺あまりの魚が多く網にかかったではないか。喜んだ許さんは、若者に何度も何度も礼をいい、そのうちに若者が帰ると言い出したので、いまさっき獲れた魚を何匹かもっていけという。
「いえいえ。魚は要りませんよ。何度もあなたの酒を飲んだのですから、これもそれへのお礼ですよ。もし、あなたがよければ、これからも今晩のように魚をおってきますよ」
「いや、それは結構じゃが、いまあんた、自分はこれまで何度もわしの酒を飲んだといったね?しかし、あんたがわしの酒を飲んだのは今晩が初めてだよ?もし、あんたが常に来てくれるのならそれは願ってもないことだがね。しかし、そうしてもらっても、わしはあんたにたいした礼は出来んがね」
これを聞いた若者、ほっとしたのか、「私はこれらか毎晩きますよ」と答える。
「これで安心した。わしは許というもの。あんたは?」
「私は王六郎といいます。許さん、また来ますよ。あなたの酒はうまいですね、じゃあ今日はこれで」
王六郎はこういいのこし、暗闇の中に消えていった。
さて、次の日、許さんは昨夜獲れた魚を市場で全部売り、それを多くの酒などに代え、いつものように夜に川辺の半小屋に来ると、なんと六郎は先に来て待っていた。こうして二人は、喜んで飲み始め、時を見て六郎が魚をこちらに追ってくるといって小屋を出て行き、許さんはそのときに網を引き上げればいいというわけ。こうして半年あまりが過ぎた。
と、ある日、酒を飲んでいて六郎が不意に言い出した。
「あなたと知り合いになり、兄弟以上の情けをもちましたが、今夜が最後の酌み交わしとなりました」
「え?六郎!急になにを言い出すんだい?」
六郎これにはすぐ答えず、杯を持つ手を震わせていたので、許さんも黙って六郎の答えを待った。暫くして六郎が言う。
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