「私は許さんとはいい友達になったので、黙っているわけにはいきません。驚かないでくださいよ」
「え?いったいどうしたんだい?」
「実は、私はゆうれいです」
「ゆう!ゆうれいだって?」
「そうです。生前かなりの酒好きで、ある日酔ってしまい、帰宅する途中、この川に落ちで死んだのです。それはかなり前のことですよ。許さんはこれまで自分の網にかかった魚がほかの漁師よりいくらか多いのに気付いたでしょう?それは、許さんが毎晩、最初の一杯を川に流して私に飲ましてくれたお礼ですよ。」
「そ、それは、本当かい?」
「本当ですよ。実は明日にこの世に戻ることが出来るんですよ」
「え?そうかい?」
「ええ!私に代わるものがみつかったんです。ですから許さんこうして酒を酌み交わせるのも今夜が最後です」
この六郎の話を聞いて許さんは恐ろしくなったが、やはり六郎との付き合いが長くなったのか、すぐに恐ろしくはなくなり、それよりも六郎とこれでお別れだと思うと悲しくなり、涙が出てきた。そこで許さんは、六郎の杯に酒を注ぎいう。
「六郎!飲んでくれ。もう会えないなんてとてもつらいが、君がこの世に戻ってこられるのならその方がよいに決まっているよ。悲しむことなんかないんだ」
「そうですね。そうなんですよね」
こうして二人はまた飲み始めた。暫くして許さんは好奇心が沸き、聞いてみた。
「さっき、君の代わりのものが来るといってたが、誰だい?」
「明日の昼ごろ、ある婦人がこの川に落ちてしまい死ぬのですよ」
これには許さん何も言わず、二人は夜明けまでのみ、一番鳥が鳴くと六郎は別れを告げて去っていった。
さて翌日の昼ごろに、許さんが六郎の言うとおりに川辺で様子を見ていると、案の定、ある婦人が幼い子供を抱きやってきたが、土手まで来たところで何と足を滑らし川に落ちた。しかし、子供は自分が落ちるときに岸辺に投げ出したので、婦人は岸辺で泣き喚くわが子の声を聞きながら溺れだし、暫くして沈んでいった。これを見ていた許さんは心が痛めつけられるようになったが、これで六郎は生き返るのだと思って、わざと助けに行かなかったのだ。そこで、立ち上がって子供を抱きに行こうと思ったが、そのときに川底に沈んだはずの婦人が川面に現れ、自分で泳ぎだし岸辺にたどり着き、泣き喚くわが子を拾い上げ、どこかへ行ってしまったではないか。
|