許さんはこれを相手にせず、旅に出た。そして半月あまりかかって招遠県につくと、そこにはウ鎮というところが本当にあった。そこで宿を見つけて泊まることにし、土地の神を祭ってある祠はどこにあると宿のものに聞くと、宿の主が出てきた。
「お客人はどこから来られましたかな?」
「わしは山東を流れるシ川のほとりからだが」
「では、許さんではないかね?」
「ああ、そうだが、どうしてあんた、わしを知っている?」
これを聞いた主はあわてて外に飛び出していった。
「なんだ?いったいどうしたというんだ?このわしが何かしでかしたとでもいうのか?」
許さんは不審に思い、いくらか不安でいると、あの宿の主が大勢の人を連れてきた。
これには許さんはびっくり仰天。あわてて荷物もって逃げ出そうとしたが、なんとみんながそれを止める。宿の主が言う。
「お客さん、実は数日前にみんなが同じような夢をみただよ」
「夢?なんだ?」
「その夢にはここの土地の神さまがでてきて、数日後、山東シ川の友達が私を訪ねに来るから、みんなは私に代わって何か贈り物をしてくれといわれましてのう。だからみんなであんたのことを待っていたんじゃい」
「本当か?」
この許さんの問いにみんなはホントだ!ホントだと答える。そこで許さんは、みんなが見守る中を土地の神を祭る祠の場所を聞き出し、誰もついてくるなと頼み、一人で祠に入っていくと、確かに土地の神の像が祭ってある。それが六郎に似てるかどうかは暗くてはっきりわからんが、許さんさっそくその像にむかって手を合わせいう。
「六郎さん。いや、土地の神さま。あんたと別れたあとあんたが忘れられず、あんたのいったとおりこうしてはるばるここまで来ましたよ。さっき地元の人々は、夢の中でわしがここへ来ることをあんたが伝えておいたと聞き、感謝してますよ。わしは何もお土産にもって来ておらん。ただ、あんたが好きだった酒を持ってきた。六郎!前のように二人で酌み交わそう!酌み交わそう!」
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