これにみんなはびっくり。特に母と妻は震えだし、女中は怖い顔をしその場にうずくまってしまう。そこで蔡四はお化けのことを詳しく話しなだめたので、みんなはようやく落ち着きを取り戻した。
さて、その後数日、離れの部屋から夜になると物音がしたが、ことを知ったみんなは誰も離れに近づかないでいた。その間、お化けが箸やお椀などを借りに来たので、蔡四は貸してやった。みちろん、蔡四は、お化けが使ったものをまた自分たちが使うつもりは毛頭ないので返してくれとは言わない。
しかし、数日後、お化けが蔡四に「蔡さん、実は五日後に、郊外で祈り事をするので、あんた見に来ないかい」とさそう。
「え?お化けでもそんなことするのか?」
「もちろん。来るかい?」
「うん、おもしろそうだな。見物させてもらおう。で、場所は?」
「場所は、大きな杉のある近くさ」
「え?大きな杉の木?ああ。あの杉の木か」
「で、すまないが、また頼みごとがあるんだよ」
「ええ?なんだ?」
「明日から、あんたの家で肉や魚を供え物にして、みんなで念仏唱えてくれよ」
「へえ?!」
「頼みます。この通りだ」とお化けはいい、なんと蔡四の前に跪いた。
「わかった、わかった。そうしますよ。お化けのお前にそうされるとは思っても見なかった。やれやれ」
「ありがとう」
こうして蔡四は次の日からお化けの言うとおりにしたところ、供え物が毎日のように消えてしまう。これに母などや屋敷のものは気味悪がったが、蔡四が知らん顔しているので黙っていた。
さて、五日後、蔡四は、約束どおり郊外の大きな杉の木のあるところに行くと、そこでは数人のお坊さんが読経していた。
「うん?なんだ?」と蔡四が黙ってこれを見ていた。そしてお坊さんたちは読経が終わると、どこかいってしまっったので、蔡四が、なんだつまらんと帰ろうとしとき、お化けの王大の声がする。
「蔡さん。蔡さん。わしについてきてくれんか」
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