「ここに見知らぬ方が寝ています」
「うん?見知らぬものが寝ている。どれどれ?」と後ろから一人のじいさんが上がってきた。じいさんは殷公に近寄りしばらく見ていたが、「これは尚書の殷どのじゃ。寝ていられるようだが、わしらのことは邪魔するまい」という。これに殷公はびっくり。自分が尚書だと?尚書とえば、都の位が高い役名のこと。殷公は起き上がってどうして自分のことを尚書と呼んだのかをこの爺さんに聞こうと思ったが、じいさんのいう「わしらのこと」のほうが気になったのでそのまま寝たふりをしていた。するとじいさんは、下の庭にいるものたちに早く支度しろと言いつける。すると下のほうで忙しく働く音が聞こえてきた。
「いったんなんだ?何がはじまるのだ?それにじいさんたちは何者だ?」と殷公が不思議がり、急にくしゃみが出そうになった。そこで必死にこらえたが、やはりだめ。殷公体を動かし、くしゃみをしたので、じいさんが振り返り、ニコニコ顔で殷公に歩み寄って跪き言う。
「これはこれは、尚書さま、お休みのところをお騒がせいたしました、実は今夜、私めの娘が嫁にいきますので宴を設けようと思いましてな。うるさくしまして、どうかお許しくだされ」
このじいさんの丁寧な謝り方にいくらか驚いた殷公だが、そこは肝っ玉が座っていて、立つとじいさんを助け起こし、「そこもとらが、今夜ここでめでたいことをはじめるとは知らなかった。恥ずかしいことだが、私はお祝いのものを何も持っておらんのだ。しかし、なにしろお祝いを申す」
これにじいさんは、喜びいう。
「尚書さま、とんでもござりませぬ。あなた様のような方に来ていただいて私めらは、喜びに耐えません。さ、支度ができたようでございますから、下にお降り下され」
|