そして儀式が始まり、殷公もかなり飲み食いした。このとき、明日朝にここで起こったこと友達らにどういおうとか考え、これが本当だったという証に、今使っている金の杯を盗んでいこうと思った。何も金目のもの目当てにしてやるのではないからと、殷公はこのときから酔った振りをし、しばらくして卓に伏して、わざと小さないびきをかき始めた。
これにほかの客はいくらか驚き、じいさんを見たが、じいさんは、そのままにしておくよう客人たちにいう。すると庭のほうでまた楽が鳴り響き、みんなはそれを見に部屋を出て行った。そこで殷公はいまだと、自分の使った金の杯をすばやく懐にしまいこみ、なおも寝た振りをしていた。
こうして宴は終わり、客人たちは去ってゆき、片付けが始まった。このとき殷公は、「金の杯が見つからない。もしかしてここで寝ておられる方が・・」という声の後、かのじいさんの「失礼なことを申すな!」という叱り声をきいた。こうして殷公はそのままの格好で寝た振りを続けた。しかし、しばらくして酒の強い殷公も本当に寝てしまった。
さて、殷公が目を覚ますと部屋には誰もおらず、きれいな飾りやほかのものもなくなり、殷公は柱にもたれて寝ていたのであった。
「うん?どういうことだ?夢だったのか?」と殷公は懐に手を入れたところ、かの金の杯は確かにあった。
「うん、うん、よかった。さて、屋敷を出るか」と立ち上がり庭に出ると東の空が明るくなり始めていた。屋敷を出ると、外には自分の数人の友達がまっていて、殷公を見ると走り寄ってきてどうだったと心配そうに聞く。これに殷公は昨夜のことを話し、その証としてかの金の杯を取り出したので、友達たちは不思議な顔してうなずいた。そして殷公が杯を誰かにやろうと言い出したが、気味が悪く、罰があたるかもしれないと誰一人もらおうとしないので、殷公は仕方なくその杯を自分のところにおいておくことにした。
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