さて、それからの殷公は学問に励み、都での科挙試験に受かって役人となり、その後いろいろと頑張ったので、とうとう尚書という役についてしまった。これに殷公自身は少し驚き、かのじいさんの言ったことは当たっていたなと思った。
それから殷公は、ある大臣と親しくなり、ある日にその大臣の屋敷にご馳走になりにいき、そのとき、大臣は、家宝だという金の杯を出して殷公をもてなした。と、この杯を見た殷公、それが自分が持っているものとまったく同じだとわかり、さっそくかの夜の出来事を大臣に話した。これに驚いた大臣は、この杯はみんなで八つあり、いつのことだか八つとも無くなり、数日後に七つが返ってきたが、残るひとつは戻ってこなかったというと、殷公は明日にでも、自分のところにある杯を持ってくると答えた。こうして翌日、殷公はかの杯を持って訪れ、大臣に杯を返し、「これでこの杯も7人の兄弟のもとに戻れたわけか、めでたいめでたい!」と笑った。これに感動した大臣はこの殷公とより親しく付き合ったという。
で、その数日あとの夜、殷公の夢にかのじいさんが現れこういったそうな。
「尚書さま、私め代わりに杯を持ち主に返していただき、ごくろうさま」とね。
そろそろ時間です。来週またお会いいたしましょう。
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