「ええ?包んでもだめなのかい?」
「うん、それでこそ、わたしの出す大金に値するものさ」
「それはどうしてだい?」
「そんなことはどうでもいいじゃないか。それはちょっと言えないことでね」
「へえー。そうかい。そこまでいわれると、いくらなんでも知りたくなるね。そのわけを知れば、本気になってあの実を守るからさ」
「うん、あの実はじいさんの樹に出来たんだから話そうか。しかし、このことは絶対に人にはもらすんじゃないぞ。それがいやなら、わけを話さないから」
「わかった、わかった。わしも口が堅いし、うちのばあさんもおしゃべりじゃないから、大丈夫だよ」
「そうか?うーん。じゃあ、話すが、絶対に秘密だからな」
「わかった。わかった。秘密は必ず守るよ」
「よし、じいさん夫婦を信じよう。実は、あの黄果の実は宝を手に入れる鍵みたいなもんさ」
「へえ?あれが?」
「ああ。」
「なんか使い道があるのかい?」
「あるとも・・うーん。よそう、じいさん。どうせこっちは大金払うんだ、どうでもいいじゃないか!」
「そういわれれば、そうだけどな」
「じゃあ、じいさん、頼んだぜ。言ったことを必ず守ってくれよ」
「わかった」
ということになり、その客は小屋を出てどこかへ行ってしまった。
こうして、その日からじいさん夫婦は二人してかの黄果の実を守ることになり、夜は交代で休み、起きているものは目をこらしてかの実をにらみ、また、じいさんは、懐にしまった銀塊を出しては眺め、それを横でばあさんも疲れた目で見ている。
こうして客が去ってから九十九日が何とか無事に過ぎた。黄果の実はかなり大きくなったが、そのころは夫婦ともどもふらふらになり、参っていた。
もう我慢できなくなったじいさんは「これ以上無理だ。死んじゃうぞ。あの客は百日といったが、今日で九十九日目、一日ぐらいかまわんだろう」
これにばあさんも首を縦に振り、二人はとうとう黄果の実をもぎ取って這うようにしてなんとか小屋に戻った。そして二人ともそのままぐうぐう寝てしまった。
さて、次の日、かの客はやってきた。金はもってきていないが、太い縄で織った梯子を担いできた。じいさんが黙っていると、客は聞く。
「じいさん、黄果の実は大きくなったかい?」
「ああ。もう十分熟して大きくなったよ。それに昨日もぎ取っておいたよ」
「ええ?昨日もぎ取ってしまった?どうしたんだ?実を見せてくれ」
そこでじいさんは、黄果の実を持ってきて客に見せた。
「大きくなったな。しかし、樹の上で百日なっていなかったので、力が足りんかもしれんな」
これにじいさんは聞く。
「あんた、この実をいったい何に使うんだい?」
こちらいくらか落胆していた客だが、それでも言う。
「実は、あの滝の下は深い穴になっていてな。そこには多くの宝物があるんだ。でも、この黄果の実がないとそこへいけない。この実は九十九日樹に実っていたので、その深い穴の扉を開けるだけの力があるかどうかはまだわからんんが、試しにやってみよう。そうそう!じいさんよ、あんた約束をちゃんと守っていないぞ。銀千両は、わたしが宝を手にしてから、いくらか少なく渡すからな。いいだろう?」
これにじいさんはつまった。そうだろう。百日の約束を九十九日にしたのだから。じいさんが黙ってうつむいたので、客はにゃっとわらい、さっそくその黄果の実を、持ってきた袋に入れて腰に結びつけ、縄の梯子を担ぐと滝のほうにむかった。これにじいさんとばあさんは黙って付いていく。すると客は滝の横下に来て、後ろを振り返り、縄の梯子の一方を放り投げ、それをじいさんに近くにある太い樹に縛り付けさせた。もちろん、じいさんは約束を全部果たしていないという後ろ目があり、また銀千両までには行かないが、これから大金が手に入るのかもしれないのだから、言うとおりにした。
すると、客は縄の梯子のもう一方を滝の下の真ん中に放り投げ、腰に結び付けてあった袋を開けて黄果の実を取り出し、縄が落ちた水面に投げた。するとどうだろう。滝の落下が不意に止まり、下の水はなくなり、そこは深い穴になっていて、穴の底にはぴかぴか光るものが沢山積んであるではないか。これに客は大喜び。うれしい悲鳴を上げると、穴の底へ縄の梯子を伝ってするすると降りていった。そして底に着くと、空になった袋に宝物を一生懸命詰め込み、これ以上入らないと分かってから袋の紐を締め、またそれを腰にぶら下げ、かの縄の梯子をよじ登り始めた。もちろん、この様子を。上でじいさんとばあさんが気を取られてみている。
と、そのとき、「ドドドドドッー」という大きな音がして。止まっていた滝の落下が始まり、すごい水の勢いで梯子をのぼっていた客の姿はあっという間に水に呑み込まれ、滝の下はまた急に流れる水で溢れた。これにじいさんとばあさんはびっくり仰天。あわてて梯子の一方を縛ってある樹を見たが、なんとその樹はものすごい力で引っ張られたのか、根元ごと抜けてしまい、あっという間に滝の下に引き込まれていった!!
しばらくして我に帰ったじいさん夫婦、不意にその場にしゃがみこんでしまった。やがて、じいさんは立ち上がり、懐から、かの客がくれた銀塊を取り出した。
「ああ、恐ろしいことよ。宝物はやはり人間のものじゃなかったんだな。わしも変な欲がでたものよ。ああ。恐ろしい」といって、その銀塊を滝の下に落とし、ぶるぶる震えているばあさん促して自分の小屋に戻っていった。
そしてじいさんは、このことを人々に言い、そのときから、この滝は黄果とはかかわりがあるというので黄果の樹の滝と呼ばれるようになり、誰一人として滝の下にある宝物を取りに行こうとはしなかったそうな。
はい、おしまい!
そろそろ時間のようです、では来週またお会いいたしましょう。
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