永泰年間に王生という人がいて、揚州にあるお寺孝感寺の北に住んでいた。ある夏の夜。王生は久しぶりに酒に酔ってしまい、うつぶせに床に伏し、左手を床から外へ垂れていた。これを見た妻は夫が風邪を引いてはいけないと、左手を床の上に戻そうとしたとき、不意に床の下から黄色い大きな手がにゅーっと伸びてきて、王生の左手をしっかりつかんだ。これに妻はびっくりして、思わす自分の手をすぼめてしまった。するとその手は王生をすごい力で床の下に引っ張り始め、王生は地面に落ちた。が、酔っているので目を覚まさない。これに妻は悲鳴を上げた。この声に隣で休んでいる数人の下女が部屋に入ってびっくり仰天。それでもかの手が王生を地面の下に引きずりこんだので、妻と数人の下女は王生の体を必死に上の引っ張った。しかし、かの手の力はものすごいもので、王生は眠ったまま地面にめり込んでゆき、妻や下女の手に寝巻きだけを残してとうとう地面の下に姿を消してしまった。
さあ大変だと、妻は屋敷の者を呼んでその部屋の地面を掘らせたが、夫はなかなか出てこない。そこで屋敷のものが必死で掘り、いっとき後にとうとう夫らしい死体を掘り出したが、それはすでに白骨化しており、なんと数百年もむかしに埋めたもののようだったと。
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