最後は、「夜の出来事」です。
魏の文帝時代、河南の頓丘というところ住む役人は、ある月が出ている晩に、遠くの親戚の家から馬で帰った。そして林を抜けた道の真ん中にどうも人間の大きさはある獣がいるのを見た。それは両目がらんらんと光り、馬の前でぴょんぴょん跳ねて、行く手をさえぎっている。驚いた役人が馬から落ちたので、その獣は飛びついて噛み付こうとしたが、役人は落とさなかった鞭で必死になって歯向かい、やっとのことで逃げなかった馬に何とか飛び乗って走り出し逃れた。
こうして役人は馬を飛ばし、やっと両側に草原が広がるところに来た。そこで馬を止め、胸をなでおろしていると後ろから馬に乗って男がやってくる。そこで役人は、その男に今さっき出会ったことをびくびくしながら話した。するとその男はびっくりした様子でいう。
「そうでしたか。それはおっかない話ですな。実はわたしはこれから頓丘へいくところで、そんなことがあったのなら、一緒に行ってもらえば、わたしも助かるというもの」
これに役人は安堵し「わしは頓丘に帰るので、ちょうどよい。一緒に参ろう」ということになり、二人は話しながら先を急いだ。こうしてしばらく行くと、その男は「あなたは先ほといわれましたが、その化け物とやらはどんな姿でしたか?もう一度言ってくださいな」
「ええ?もう一度?いや、思い出しただけでも肝が縮むが、いたしかたない。実は、人間の大きさで、両目がらんらんと光り、それは恐ろしい顔でしたぞ」
「え?目がらんらんと光っていた?」
「そうそう。両目がらんらんと光っていてね」
「どのように?」
「え?どのようにって・・それは、そうじゃのう。暗闇で見る猫のような目じゃ。それに牙が並んだ大きな口をもってね」
「ほう。では、もしかしたら違っているかももしれませんが、あなたの見たのは・・」とその男はいうと、下を向いた。そして「こんな顔をしていたのでは?」とその顔を上げた。もちろん、月の明かりがあるので役人も相手の顔が見える。そしてその男のあげた顔とは、なんとさっき役人が見た獣のものとまったく同じ恐ろしい顔だったのだ。
「うひゃー!」とこれに役人は肝をつぶし、馬から落ちて気を失ってしまったワイ。
そろそろ時間のようです。来週またお会いいたしましょう。
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