「さあ、どうそ、どうそ。席にお座りくだされ。そして十分に召し上がってくださいな」
これにポカーンとしていた役人や金持ちがやっと我に帰り、みんなは面白い顔して席につき、酒や料理に手をつけ、その美味さに驚き喜んだ。
さて、夏の初めなら池には蓮の花が咲くのだが、このときは冬のなのでそんなものはない。ある役人がいい気になって「美味い酒に美味いもの、これに見事な蓮の花が見られればもう言うことはないんじゃが」と贅沢をこぼした。これを聞いた道士は、にゃっとわらい下あごをなでた。すると外から一人の下役人がは東屋に走り入ってきた。
「申し上げます!池には蓮の花が咲いております!」
これにみんなはびっくり。慌てて箸や杯を置いて外に出てみると、来るときは殺風景だった池には、見事に咲いた蓮の花が多く見られるではないか。そこで一人の役人が岸辺に小舟があるのをみつけ、さっそくそれに飛び乗り、蓮の花を採ろうとした。これに道士は顔をしかめた。そのとき、急に北風が吹き、あっという間にはすべての蓮が消えた。
「おお!なんと今の蓮の花は幻であったか!」と役人たちはまたも驚いた。こうして宴も終わり、役人たちは上機嫌で帰っていった。
さて、その日からしばらくして、都からの見廻り役が済南に来た。この見廻り役はもちろん地方の役人たちよりも位が高いが、かなり意地悪で、短気な人間だった。これを耳にした地元の役人たちは、この見廻り役を怒らしては大変と、できるだけの世話をしたが、それでも不満なのか、この見回り役は常に怖い顔をしている。
と、ある宴席で地元の役人が見廻り役の機嫌を取ろうと、かの道士の話をした。これに見廻り役は、普段から道教を嫌っていたが、面白いことがなかったので、暇つぶしに意地悪でもするかと、早速次の日に道士を呼ぶよう命じた。
こうして翌日の午後、道士が見廻り役のところに来た。そこで見廻り役は道士を睨みつけて言う。
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