では、最後に「幽霊の仕返し」です。
話は晋の時代。升平元年のこと。任懐仁はとても賢く、13歳という若さで役所に勤めていた。このとき、王祖という気が小さいものがなんと県令になったが、王祖は任懐仁の仕事振りを見て自分のところで書生のようなことをやらせた。ところが任懐仁が15のときに、王祖が他のところで不届きを働き、それをこっそり処理した。これを知った任懐仁は王祖のことが嫌いになった。王祖は、自分の不届きを任懐仁が知ったことがわかり、ことが公になるのを恐れた。そこで王祖は、任壊仁を旅の共に連れ、嘉興というところでひそかに殺して、どこからか用意した小さな棺桶に入れて徐作というものの家の近くにある祠のすぐ近くに埋めてしまった。
翌日、徐作が家から出てくると、近くの祠から白い煙が出ているのを見つけ、何だと思って行ってみると、なんとそこは穴を掘って何かを埋めたようになっていた。それに近くに片方の靴が落ちているのを見つけ、これは誰かが埋めたれたに違いないと悟り、そこにまた土を盛り、家から板を持ってきてその上に差込み、一応は墓としたあと、かの片方の靴をその上に置き、誰か知らないがかわいそうに成仏してくれと手を合わせ、そのまま帰った。
さて、翌日、気の優しい徐作は、誰かもわからなく寂しく一人で土の中に眠っている死人が気の毒になり、自分の食べるものを少しわけてその墓に供えた。
「お前もかわいそうに、何でこんなところに埋められたんだい?ま、俺は一人暮らしで金もなく、たいした物はないが、食べてくれ」
こういい残し、徐作は家に帰った。そして夜に徐作はどこからか酒を持ってきて「墓の下のお前、今夜は一緒に飲もう」と一人で飲み始め、酔って寝てしまった。
次の日、徐作が目を覚ますと、何と床の横に誰かが座っていたのでびっくり。
「うん?だ、だれだ?!あんたは!」
これにそのものはニコッと笑い答えた。
「なんだい?徐作さん、わたしだよ」
「わたしって?いったい誰だ?かなり若いけど」
「ああ。わたしは任懐仁といってまだ十五だよ。ほら、あのあんたが立ててくれた板の下に眠っているものさ」
「ええ?じゃあ。お前があの下に眠っている死人かい?どうしてあんなところに埋められたんだ?」
「悪い奴の供をして旅に出ている途中で殺されてね」
「ええ?殺された?」
「ああ。だって、わたしはまだ十五だろう?相手は力のある大人だ。かなわないよ」
「そうか。気の毒だな」
「そういってくれるとありがたい。それにあんたが食べるものを供えてくれ、酒も飲ましてくれるなんて、思っても見なかった。ありがとう」
「いやいや。俺も一人暮らしで寂しいんだよ」
「そうみたいだね。それにあんたは幽霊を恐れないから、わたしは助かったよ。実はあんなところに寝ていて、わたしも寂しいんだ」
「そうかい。そうだろうな」
「徐さん、ほんとにありがとう。それでね」
「なんだい?俺に何か用かい?」
「赤の他人なのにこんなに世話してくれたあんたに、わたしはお礼をしなきゃ」
「ええ?お礼?幽霊のお前に何できる?」
「いやね。行方がわからないわたしはもう死んだとわたしの家族は知ったらしい。そこで今夜、わたしの屋敷でわたしが成仏するようにと儀式があり、かなり美味いものを供えるんだ。だからわたしはあんたに屋敷に来てもらって、美味いものをたくさん食べてもらいたいんだよ」
「ええ?そりゃあいいけど。でも俺はお前とは赤の他人。お前の家族が俺のことを不思議がるぜ」
「大丈夫だよ。あんたは墓の近くでわたしの靴を拾っただろう?」
「そ、そうだったな」
「あの靴を持って行ってわたしがどこに埋めてあるかを教えれば、うちの家族はきっと感謝するよ」
「そうだな。じゃあそうしようか。でお前は?」
「わたしはあんたに付いていくからさ。いざというとき以外は、わたしの姿が見えるのはあんただけさ」
「おお。そうか。わかった」
ということになり、徐作はその日の夕方、任壊仁の屋敷に向った。そしてかの靴を家族に見せ、任壊仁の墓のことを告げたので、家族はお礼を言い、翌日早くに墓にいき、屍を屋敷に持ち帰ることにしたそうな。
さて、任壊仁の冥福を祈るために料理が運ばれ、まずは位牌の前にそれらが供えられた。もちろんその前に親戚や友人、それにほかの人々が屋敷に来ていたが、供え物と同じ料理が運ばれると、徐作はその姿がほかの人には見えない任壊仁の勧めもあって、みんなと一緒に酒を飲み、料理を食べ始めた。
と、そのとき、任壊仁を殺した王祖が生前の上司ということで屋敷に現れた。もちろん、自分が任壊仁を殺したとは誰も知らないと思っており、悲しそうな顔で席に座ったところ、こちらの席の徐作の横にいた任壊仁はこれを見て徐作にいう。
「徐さん、やつが私を殺したんだよ」
これに徐作はびっくり。
「徐さん、一緒についてきてくれてありがとう。実はあんたが付いていないとわたしは仕返しできないんだよ」
こういうと任壊仁はその姿を現し、ものすごい顔をして王祖の前に飛び、「王祖!よくも私を殺したな!これが仕返しだ!」と叫び、王祖の首に噛み付き、肉を食いちぎるとさっとその姿を消してしまったワイ。
こちら王祖、余りにも急なことであり、ただぼっとしていたが、殺したはずの任壊仁に首を噛み千切られ、多くの血を吹きだし、どっと倒れてこと切れてしまったと。
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