今度は「川に浮かぶ大木」です。
ロウ州は嘉凌江のほとりにある町。で、ここの川には、長さ百尺はある大木が浮かび、これまで流されずにいて、いったい、いつ、どこから流れてきたのかもはっきりしない。ロウ州の辺に住む老人の話では、この大木はむかし、洪水が起きたときにここに流されてきたものだという。
さて、高元裕という役人が大和九年にここロウ州の長官となり、民百姓のために確かな仕事を多くしたので、評判はよかった。
と、ある日、長官はこの川の岸辺に来て、かの浮かぶ大木を見て首をかしげたが、その日は黙って屋敷に帰った。次の日のあさ、役所にでると下のものが来て、かの大木はこれまで太いほうを東に向けていたが、今朝は、それが西に向かっていると報告に来た。
「なに?まことか?よし」と高元裕は部下と共に川辺にきた。そしてそれが本当だとわかると、近くに浮かぶ小船を集め、更に多くの者を呼び、太い縄で大木の片方をしっかり結ばせ、大木を岸辺に引っ張らせた。やがて大木はどうにかして半分岸辺に上げられそうになったが、いくらそれ以上引っ張っても動かない。そこで高元裕はより多くの者を集め、みんなで力いっぱい引っ張らせたものの、やっぱりだめ。高元裕はこれを見てため息をつき、大木はそのままにして置けと言い残し、役所に帰った。
こうしてこの大木は岸辺に半分上げられたまま日が過ぎた。もちろん、これを見た商人は、大木を切って売ろうとし、ある役人はこの大木を彫刻の材料にしようと思ったりした。しかし、長官である高元裕はこの大木は不思議なものだからまた、もとのように川の浮かばせようとしたが、それにはかなりの者を使うことからどうしようかと迷っていた。
こうして年が過ぎ、開成元年となったが、その一月十五日に高元裕は下のものや州の役人どもを呼び、町の祠で線香を焚かせ、またも多くの人や船を集めて太い縄を準備させ、この大木を川に戻そうとした。そして大木に縄を縛りつけ川のほうへ引っ張ったとき、なんと大木は大勢の人々の掛け声が聞こえるのか、勝手にずるずると川の真ん中に進み、大きな音を立て、縛りのすべての縄をちぎって川底へ沈んでしまったではないか。これにみんなが驚いていると、川の中で変な音がし、なんとそれまで濁っていた川の水が透き通り始めたではないか。そして川底に沈んだかの大木だけでなく、他のものまではっきり見えるようになり、なんと今さっき沈んだ大木と同じような大木が川底にしずんているのが見えた。そこでもぐりの得意なものが川に飛び込んで川底を探ってから水面に顔を出し、大声で高元裕のいるほうに叫んだ。
「長官さま!川底の二本の大木は、仲良く並んで川下のほうへ流されていきますよ!」
これに高元裕は驚いた。そしてみんなが固唾を呑んでいるうちに二本の大木は遠くへいってしまったと。
さて、その日の夜、高元裕が寝ようと横になると耳元で声がした。
「高元裕よ。わたしはかの大木じゃ。実はわたしは川面で長い間わたしの仲間を待っておったんじゃ。そして丁度仲間が川底に来たときに、そのほうはわたしを川に戻してくれたな。おかげで仲間とこれから旅をすることができた。高元裕よ。礼を言うぞ!そのうちにその方にも良いことがあるかもしれんぞ。では、さらばじゃ!」
この声に高元裕は驚いたが、しばらくして寝てしまった。
数日後、都から使者が来て、都の役人はこれまでの高元裕の働き振りを高く買い、都である職に就くよう命令が来たのであった。このとき、高元裕はあの夜耳元で聞こえた声を思い出し、心の中で大木に感謝し、翌日都に向かったという。
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