「ほう!そのほうが幻術を使うとかいうものか?」
これに道士はいくらかむっとなったが、それでも笑顔を作って答えた。
「いえいえ!幻術などは使えませぬ。ただ、日ごろからお役人さまがたのお世話になっていたので、そのお礼として少しやってみただけのこと」
この答えに見廻り役は不機嫌になった。
「何じゃ?そのほう、わしの前でもったいぶった言い方をするとは無礼じゃぞ」
「これはこれは、何を言いなさいますか?わたしめは自分のことをもったいぶってはおりません」
こちら見回り役、「この道士め、実はたいしたことはできないのだな。ここで痛めつけてやるか」と思って急に怒鳴った。
「たわけめが!貴様はたいしたこともできんのだろう!ふん!それ、ものども、こやつを二十回叩け!」
これに道士は驚いたが、別に怖がることなく、横に並んでいた下役人どものいうなりになって地べたに腹ばいになった。もちろん、まわりでこれを見ていた地元の役人は驚いたが、都から来た見回り役がこわいので黙ってみていた。
こうして手に棒を持った下役人が道士の尻をたたき始めたが、どうしたことか棒が道士の尻の当たると、悲鳴を上げたのは道士ではなく、なんと上席にすわっている見回り役だった!
「うわ!痛い!」と見回り役はいったいどうなっているのかが分からなかったが、これが道士の仕業だと悟ったものの、大きな声で悲鳴を上げては面子がないと思い、痛みをひたすら我慢していた。
しかし、棒で道士を叩いている下役人にはそれが見えず、だたひたすら道士を叩きつけるだけ!で、こちらうつ伏せになっている道士は叩かれても何事もないようにただニヤニヤしていた。これを見て下役人は不思議がり、何と力を入れた。これには見回り役は、もう我慢できなくなり、とうとう悲鳴を上げて「止めろ!止めろ!叩くのは止めろ!」と叫び、何と痛さのあまり、その場で気を失ってしまったワイ。
これをみた道士は不思議がっている下役人と周りの地元の役人をみて笑い出し「わしは何も悪いことはしておらんよ」と言い残して出て行ってしまったと!
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