モンゴル族の音楽は、楽器なら馬頭琴、歌といえば「長調」でしょう。長調は、モンゴル語では「長い歌」という意味です。その「長い」には、歌そのものが長くて、ゆったりと安定しているということを意味するほか、歌の歴史も長いという意味合いもあるといわれています。
「長調」はメロディが滑らかで、音域が広く、非常に情緒豊かです。聞いていると、心の奥まで響き渡って、広々とした草原が思い浮かんできます。
地元では、祝日や豊作のとき、また結婚式、誕生日などお祝いのときによく歌うそうで、子供からお年寄りまで誰でも歌えるといわれています。中国内蒙古自治区の長調歌手のバツハさんは、子供のころを振り返って、次のように話します。
「長調を習い始めたのは、5、6歳のころです。あのとき、長調とはどういうものかよく分からなかったのです。ただ、親が教えてくれたのをひたすら覚えていただけです。そうやって、10歳くらいで3、40曲歌えるようになりました」
バツハさんは幼くして、その家族が歌うすべての歌を身につけましたが、その後、隣の家、さらには隣の村にというふうに、その地方のあちこちをまわって長調を勉強しました。そして2000年、内蒙古のシリンゴル盟で行われた長調の歌謡大会で見事2位を獲得し、さらには去年4月、中国芸術代表団の1人として、温家宝首相と一緒に日本を訪問しました。東京の国立劇場で長調を歌って、観客から大きな拍手が送られました。
「モンゴル族の歴史上、国の指導者と一緒に外国を訪問することはなかったのですよ。ですから、温家宝首相との日本訪問は、まさに史上初でした。温首相から"ご苦労様。国の発展と少数民族の文化伝承のため、これからも努力してください"と励まされ、大変感動しました」(バツハさん)
バツハさんの話によりますと、長調の題材には、故郷や家族に対する思いのほか、馬とお酒を歌ったものも多いということです。それを歌うことを通じて、歴史や文化を語るというわけです。長調は、すでにモンゴル族の精神の中にしみこんで、モンゴル族のシンボルになっているといえるでしょう。
こんな長調ですが、実は一時、絶滅の危機に陥ったことがありました。昔に比べ、長調を歌う人が少なくなって、長調を研究する人も数えるほどしかいなくなりました。
このままではいけない、と気付いた政府は、長調の保護に取り組みました。歌謡大会や研究会を行ったり、芸術学校などで長調の授業を設けたりしました。そして2005年、モンゴル人民共和国と共同申請によって、長調が世界無形文化遺産に登録されました。
長調の今後について、内蒙古自治区東ウジュムチン地区の長調協会会長のデムチグさんは、こう語ります。
「長調を取り巻く環境は今、非常に恵まれています。ですから、今こそ、中国国内だけでなく、世界の舞台にも上って、各国の人々に長調を聞いていただければと思っています」
モンゴル族が誇る芸術・長調。その名前が示しているように、ゆったりと穏やかな「長い調べ」が、今後いつまでも伝わっていってほしいものです。(鵬)
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