ところで、中国中部を西から東へと流れる長江の流域には揚州がありますが、この揚州には「五丁饅頭」というとてもおいしい軽食があります。この「五丁饅頭」とは五つのものをさいの目切りにして混ぜ合わせ味をつけて、それを具として包んだ饅頭のことです。その具とは、今ではたいていはなまこ、鶏肉、ハム、たけのことむきえびで、今では非常においしいことで知られています。今日はこの具入り饅頭にまつわるお話です。
清の乾隆帝が長江以南を見回り、この日は揚州にくることになった。さあ、揚州は大変。地元の役人たちは喜び、また恐れた。というのは皇帝が来るのは地元にとってこの上もない光栄であるが、皇帝をもてなすのも容易なことではない。それに少しでも不届きがあると役職を失うのは軽いほうで、下手をすると命が危なくなる。とくに気を使うのは皇帝が口にするもので、皇帝は普段から山の幸と海の幸を口にしていることから、特に美味しいものでないと喜ばない。そこでこのことを扱う役人は、急いで乾隆帝の側近を尋ね、乾隆帝の好みを聞いたところ、側近は答えた。
「皇帝さまは、揚州の饅頭がよいと申されてな」
「はい、揚州の饅頭と申しましても、いろいろあり、肉入り饅頭、小豆入り饅頭、野菜入り饅頭、豆腐入り饅頭、えび入り饅頭、卵も黄身入り饅頭、かに味噌入り饅頭、魚入り饅頭、五目入り饅頭・・・」
「まて、まて、もうよい!いうな!それらは皇帝さまは口にはされぬ!」
「え?と、といまれますと?」
「珍しいものはないではないか!」
「で、では」
「そうじゃな!皇帝さまはいわれたぞ!体によいものがなくてならんが有りすぎない。うまくても香りが強くない。あまり脂っこくない。歯ごたえが少しある。きめ細かいが柔らかくなりすぎないという五つのことじゃ!」
「ええ?」
「なんじゃ?地元にはないのか?」
「あ、いえいえ!」
「では、そのようにいたせ。わかったな!?」
「はは!」
ということになり、地元の役人はこのことを早速厨房に知らせた。これに厨房人たちは頭を抱えた。
「困ったのう?皇帝さまの側近の方がいう『体によいものがなくてならんが有りすぎない。うまくてもあまり香りが強くない。あまり脂っこくないこと、歯ごたえが少しあること、きめ細かいが柔らかくなりすぎない』という五つのことだが、考えてみれば見るほど難しい」
「そうだな。そんな難しい饅頭など聞いたこともないワイ」
この厨房人の話を聞いた役人は、これはいかんと揚州の長官にことを話した。
「なんじゃと?その饅頭は奴どもには作れんじゃと!?それでは、揚州にいる腕のよい厨房人を集めろ!はやくいたせ!夕餉に間に合わないと大変なことになるぞ!」
「はは、わかりました!」
ということになり、係りの役人は、揚州の腕のよい厨房人を集めた。
さて、集められた厨房人たちは、係りの役人から詳しい話を聞くとやはり、互いに見ては首をかしげ頭を痛めだした。そこに、気がかりだった地元の長官が来てこの様子をみたあと、腕を組んで考えていたが、やがて「頼むから何とかしてくれ」という言葉を残して行ってしまった。これを見た一人の年配の厨房人が「みんな、そう慌てなさんな。わしが考えてみよう」といい目をつぶった。
「おう!丁のとっつあんの家はこれまで五代も厨房で働いてきたんだ。なんとかなる」とほかの厨房人は期待の目でその丁というじいさんを見つめていた。やがて、丁のじいさんは言い出した。
「いいかい?皇帝さまの側近の方が言う、体によいものがなくてならんが有りすぎない。うまくても香りが強くない。あまり脂っこくない。歯ごたえが少しある。きめ細かいが柔らかくなりすぎないという五つのことじゃったな?」
「ああ。そういうことだった」
「ではまず、体によいものがなくてならんが有りすぎないというのならナマコがいい。そしてあまり使わんことだ」
「おお。そうだな」
「うまくても香りが強くないのなら、鶏だな。これも多すぎないこと。また、あまり脂っこくないというんだから、少し脂身のついた肉がいい。それに歯ごたえが少しあるというのなら、たけのこを使おう。また、きめ細かいがやわらかすぎないというのなら、それは新鮮なむきえびしかない」
「ほう!なるほど、なるほど」とこれにみんなはうなずく。
そこで早速これらをさいの目切りにして一緒にかき混ぜ、丁のじいさんが味付けをし、それを餡として小麦粉を練ったものに包んで蒸かした。で、こちら長官は、かの饅頭が作れたというので厨房にきてみると、なんともうまそうな饅頭が出きったばかりなので、味見してみたが、驚くほどうまいので、早速、その丁のじいさんを連れ、自らそれを皇帝のところに運んだ。
そこで腹をすかしていた乾隆帝が早速箸を取り、その饅頭の湯気をふうふう吹きながら食べ始めた。
「うん?!これはうまい!これはなんと言う饅頭じゃ?」
これを聞いた長官は、ここに来るまでに丁のじいさんから話を聞いていたので、次のように答えた。
「これは皇帝さまの五つのお言葉を基に作ったものございますので、五句饅頭とでもいいましょうか?」
これを聞いた乾隆帝は笑い出し、丁のじいさんやほかの厨房人、それに長官に褒美をわたしたわい!それからというものこの饅頭は皇帝が好む食べ物としてはやりだし、のちに五つの材料を「丁」つまり、さいの目切りにして混ぜて餡にしたことから「五丁饅頭」と呼ばれたワイ!
そろそろ時間です。では来週またお会いいたしましょう。
|