これはもう間違いないと朱仁と妻が「息子や!」を大声を上げ、泣き出した。
そこで僧侶は、少年をこの家に残してどこかへ行ってしまった。こうして朱仁夫婦は、少年と暮らし始め、少年も親孝行者だったので、楽しい日々が始まった。
ところが、数年経って少年が、夜半になると黙って必ず出かけるのに気付いた夫婦は、不思議に思ってわけを聴くと少年は黙って答えない。それにやめろといってもそれが続くので朱仁夫婦はある晩、少年がまた出かけたのを見て、庭の隅に隠れて帰ってくるのを待った。それ満月の夜だったので、あたりの様子は見えた。しばらくすると、なんと一匹の大きなネズミが庭に入ってきた。二人は声を出すところを必死に堪えて見守っていると、なんとそのネズミはふと少年の姿に変わったではないか!これに二人はびっくりして声を出してしまった。これに気がついた少年は振り向き、隅から出てきた夫婦を見つめていたが、しばらくして震えて立っている夫婦に言い出した。
「とうさん、かあさん。これまでかわいがってくれてありがとう。おいらは実は山奥に棲むネズミだよ。お二人の息子は十年前に山で狼に食われたんだ。そこで寂しがっている二人のことを知ったおいらの師匠が、こうしていくらかでも二人を楽しませようと、おいらをここに送ったのさ。正体がばれてしまったからには、ここには居られないや」
これに朱仁がおどおどしていく。
「じゃあ、いってしまうのかい?」
「うん。仕方ないよ」
これに妻が涙流していう
「息子や!お前がネズミでもかまわないから、家にいておくれ」
しかし、少年は首を横にふった。
「だめだよ。かあさん。これがおいらたちの掟なんだ。でも、二人にはそのうちにいいことがあるかもね」
こういって少年は、二人に一礼し、ネズミの姿に戻ってどこかへ行ってしまった。
さて、翌年、朱仁夫婦には思ってもみなかった男の子が生まれたわい。
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