で、今日のこの時間は「親孝行者」、それから「大きな網」というお話しをご紹介いたしましょう。
まずは、「親孝行者」
むかし、湖のほとりに根宝という若者が住んでいた。根宝は母と二人暮しで、幼い時から母が苦労して自分を育ててくれたことを忘れず、それは親孝行な息子。山で刈った柴を町で金に代え母に美味しいものを買ったり、湖で魚を獲り、煮たり焼いたりして母に食べさせたりして、何にしても先に母のことを考えるといういい息子じゃった。
しかし、母は息子が嫁をもらう歳になっていたので「根宝や、お前の気持ちは母さんもうれしいよ。でも、お前はもう嫁をもらう歳だよ。お金は少しでも多く貯めなさい」
「かあさん。そんなにあせることないよ。そのうちに見つかるさ」
「そんなこといって。いつになるんだい?私も早く孫が抱きたいからね」
「その話はやめよう」
「お前は、いつもそうなんだから・・」
という具合に、いつも話が合わなくなる。そのうちに母は、根宝が持ち帰った美味しいものは食べなくなり、ため息ばかりつくようになった。
「かあさん。どうしたんだよ。また食べないの?体に悪いといってるだろ」
「そんなことわかってるよ。でも、お前が嫁さんもらわないと、どんな美味ししものでも、のどが通らなくなるよ」
これには親孝行ものの根宝、「母さん、頼むよ。食べてくれよ」と跪いて頼んだ。
「お前が嫁を連れてくるまでは、母さんは食べない!」と母はいい、なんと寝込んでしまった。あせった根宝、どうしたらいいのかわからなくなった。これでは山に柴刈りに行ったり、湖に魚とりに行ったりするどころではなくなった。
その翌日、根宝は近所のじいさんから、山の崖に生えている霊岩草は、神が授けた草で、これを床の横に置いておくと、床に臥しているものは飲まず食わずでも生きられ、それに元気を失わないと聞いた。
「よし、こうなりゃあ、その草を取ってきて母さんの床の横に置こう」ということになり、よく朝早く、根宝は出かけた。こうして数日探したがなかなか見つからない。それに何も食べない母は徐々に弱っていく。
「こりゃあまずい」と根宝はあせり、とうとう山の頂上で叫びだした!
「霊岩草や!霊岩草!お前はどこにいるんだ。早く出てきてくれ!そうでないと、母さんが・・」と涙まで流し、そのうちに疲れたのか何時の間にがその場で寝てしまった。
しばらくして、根宝はあるにおいに目を醒まし、「なんという香りだ」とその匂いのするほうへいくと、ある岩の下から霧のようなものがゆっくり上がっているではないか。
「この匂いはどうも岩の下の崖からのぼってくるようだ。どうしよう」と根宝は迷ったが、母のためならと思い、腰にぶら下げてある縄を解き、近くの太い樹に一方を結んで、縄を崖下に下ろし、縄をしっかり握って下りはじめた。こうしてゆっくり下りていくと、かの匂いは増すばかり。それがかなり下の岩からするのがわかった。ところがあるところまで下りると縄がそこまでしかないので、根宝はあせった。それよりも縄を握っている両手が痛くてたまらなくなり、そのうちに根宝は、手を離してしまい、下へ落ちていった。
さて、どのぐらい経っただろう。ふと目を醒ました根宝は、自分が船倉で横になっているのにびっくり。すぐに起きようとしたが、体中が痛む!
あまりの痛さにうめき声を上げると、一人のじいさんが煎じた薬を持ってきてくれた。
「ああ。若いの。無理しないで寝ていなさい」
「あのう。おじいさん、ここは?」
「ああ。実は昨日、わしの孫娘が湖で網を張っていて、あんたが水に浮かんでいるのを見つけ、さっそく、わしと二人であんたを助けたのじゃ。そして孫娘が山で薬草を採ってきたので、それをつぶして膏薬にして傷跡に塗ったが、いくらかよくなったのか気が付いたようなだな。いま、薬を煎じてあんたに飲まそうとしているところじゃわい」
これを聞いた根宝は礼をいい、薬を飲むと、爺さんがわけを聞いたので、これまでのことを細かく話した。
「そうかい。実に親孝行な若者じゃな。それにあんたの体から霊岩草の匂いがするわけもわかったわい。それにしてもあんたはいい体をしておる。その上、あの草の匂いをかいだので、死なずに済んだのじゃろう」
「本当ですか?おしいさん!」
「ああ。きっとそうじゃろうよ。さもなければ、あんたはとっくに死んでいるワイ。それにしても、若いのや、あんたも親孝行者じゃな。わしは感心したよ」
これに根宝は黙ってしまった。そして起き上がり、「おじいさん、どうもありがとうございました。おいらはこれで帰ります」
「怪我はまだ治っておらんぞ」
「家では、母さんが心配してるし、ものを何も食べないので飢え死にするかもしれません」
根宝はこう言って、じいさんが止めるのもかまわず、船から下りようとしたが、すぐにふらついた。幸い、じいさんが彼を支えたので、川には落ちなかった。
「ほらほら、無理することはない」
「でも。母さんが・・」
これにじいさんはひげをなでながら考えてからいう。
「どうじゃ?お前さんは親孝行するため、わしの孫娘を連れて行きなさい。あんたの母さんにものを食べさせるため、嫁を連れてきたというのじゃよ」
これを聞いた根宝は、船倉の隅のほうに、このじいさんの孫だという娘が黙って座っているのに気がついた。そこで顔を赤くしてじいさんに言う。
「おじいさん、それは駄目だよ。そんな無理なこと頼めませんよ」
根宝はこういい終わると、船を去ろうとする。じいさんはこれを止め、ため息ついていう。
「お前さんがそういうのならそうでもいい。しかし、怪我はまだ治っておらんぞ。どうじゃ?わしがあんたを送っていこう」
これに根宝、家は湖のほとりにあるのでこれにうなずいた。そしてじいさんは、船を漕ぎながらはなし始めた。
「実は、わしらは紹興のものでな。地元での暮らしがうまくいかず、この湖一帯は暮らしやすいときいたもんだから、半月前に孫娘をつれてここに来たんじゃよ。でな、実を言うと、わしの孫娘も嫁入りする年頃でな。もし、いい相手が見つかれば、さっそくそうしたいと思っていたところ。あんたは親思いの上に、正直で、頑丈な体をしておる。これはあんただけに言うが、実は孫娘はあんたを助けた後、ずっと顔を赤めておるんじゃよ。つまり、あんたがうんと言えば、孫娘はイヤとはいわないじゃろう。どうかな?若いの」
これに根宝、いくらか心が動いた。しかし、母が心配なのでこれには答えなかった。しかし、断りもしなかった。これにじいさんはにっこり。
さて、母は息子が帰ったこないので心配になり、その次の日も帰らないことから、床に臥していられなくなり、いくらか弱まっているものの、庭に出て息子の帰りを今か今かと待ち望んでいた。すると、息子が帰り、それに頭などに包帯をして。あるじいさんに支えられている。これを見て母は、びっくりして気を失ってしまった。これに慌てた根宝、怪我の痛みも忘れ、「母さん!母さん」と叫びながら、母を部屋に抱きこみ、床に寝かせた。もちろん、根宝は必死になって看病したので、母はやがて息を吹き返した。と、そのとき、一人の若いきれいな娘が、煎じた薬を手に部屋に入ってきたのを見て、母は根宝に、「息子や!とうとう嫁さんを連れて帰ってきたんだね」という。
これに根宝は苦い顔したが、これ以上母を困らせてはならないと、そっとじいさんの孫娘をみてから、顔を赤くして母にうなずいて見せた。これに娘も真っ赤な顔してうつむいてしまったワイ。
これに母は大喜び。お腹がすいたから何か食べさしてくれと言い出し、横でこの様子を見ていたじいさんは、大笑いして喜んだワイ。
こうして根宝は自分を助けたこのきれいな娘を嫁にした。よかった!よかった!
ところで、根宝が霊岩草の匂いをかいだので、死なずにすんだといううわさは広まり、その後、人々が山へ霊岩草探しに出かけ、多くの人が死んだり大怪我したりした。これを聞いた観音さまは、これは危ないと山から霊岩草を全部持ち去ってしまったので、その後、誰もこの霊岩草の匂いをかいだことはないという。うん!
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