異業種勉強会とでもいうのでしょうか、様々なジャンルのお歴々の方々のサークルの末席に歌手として加えていただき、東北地方へ親睦旅行に行った時のことでした。
新幹線からローカル線へ乗り換えましたが、その車両は我々一行の貸し切り状態でした。車窓からの真白で幻想的な雪景色は、蘇州人の私にとって初めて見る風景で、まさに「雪の降る町を」の世界でした。
乗り合わせておられる数人のお客様に気を使うこともせず始まった車中宴会は、ビール、日本酒、ウイスキーなどを飲んだり騒いだりで、目的地の温泉地に着くまで盛り上がる一方でした。
途中の駅から一人のおじさんが私の隣の席に乗り込んで来て、少々戸惑った様子で荷物を棚に上げて、おとなしく座っておられました。グループの中から「一緒に飲みましょうや。」とビールを勧めたことからやっと打ち解けられ、それではと棚から下ろしたかばんの中からはなんとビール缶が出てきて、この方も飲める人だと分かりました。誰かが私が歌手であることを紹介したり、そのおじさんが地元の校長先生だったことも分かると、にわかに楽しい雰囲気になりました。
その車内は、ほとんど酔客ばかりの感じになってきたので、他の皆さんにお詫びしようと、私はガタゴト揺れる列車の音を伴奏にアカペラで「早春賦」を歌いました。歌い終わるや満場の拍手で少しほっとしましたが、元校長先生もとても喜んでくれました。
「今夜はどこへお泊まりですか?ほう、そこは有名な旅館ですね。私は次の駅で降りますが、あれが私の実家です。」と雪景色の中の農家を指差して教えてくれました。お別れが少し淋しくなり、持っていた私のCDをプレゼントしました。
すっかり酔った一行を乗せたバスが目的地の某旅館の玄関に無事到着し、女将さんや仲居さん達が出迎えてくれました。
その時、「李さんへの品物が届いております。」と女将さんから知らされました。
見ると玄関先に地元の名酒の一升瓶が数本ズラッと並んでいました。何と先ほどお別れした元校長先生が歌とCDのお礼にと旅館に届けてくれていたのです。
一行はどっと歓声を上げました。「李さんの歌が名酒に変わった!心が届いたんだ。」冗談半分で「李さんよく稼いてくれましたね、」「李さんありがとう!」の言葉をあちこちから浴びました。
夜の大宴会ではみんな飲むわ、飲むわ、いただいた名酒もありがたくジャンジャン飲み干しました。
その夜、私は初めて日本の混浴露天風呂を体験しました。
元校長先生とは今も交流があり、お手紙のやり取りをしたり、自作の新米のコシヒカリを送っていただいています。
歌、酒、お米でつないだ日中友好のひとコマでした。 (文:李広宏)
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