この大きな料理屋に近づくと「本場の味"どじょうの豆腐潜り"」と書いた板が置いてあったので、ここにしようと供と店に入った。そして二階の窓の横に座ると、店の小僧がニコニコ顔でやってきて「お客さん、何を食べますか?」と聞く。
「実は、ここまで来る船の上で、巾口の"どじょうの豆腐潜り"という料理はうまいと聞いたのでな。それをもらおう。それと酒を頼む」
「へい!」と小僧は答え、しばらくしてこの店で作ったという"修江甜醸"という酒と数皿のつまみ、それに熱々のうまそうな豆腐料理を運んできた。
「うん。これがさっき聞いた"どじょうの豆腐潜り"か」と、正徳帝は酒を一口飲み、「これはうまい」といってから、その豆腐料理をみると、白い豆腐の塊の上に、千切りにした生姜、葱と唐辛子、そしてきくらげなどがのっている。
「これはあんかけ豆腐か?さっきは、どじょうと聞いたぞ?おかしいわい」と正徳帝は、箸を取って豆腐を崩してみると、なんと、中から長さ一寸ぐらいの、黄色い細長い小魚が出てきた。
「うん?なんじゃこりゃ?これがどじょうか!」
宮殿で山の幸、海の幸を食い尽くしている正徳帝だが、こんな料理は生まれて始めて。そこで箸を置くと店の小僧と呼んだ。
小僧は、この客がかなりの金持ちだと思っていたので、これが正真正銘の"どじょうの豆腐潜り"だと丁寧に答えた。
「おお。そうであったか。これは変わったどじょうじゃな。どじょうが豆腐の中にもぐっているとはまことにそうじゃな。そのもぐっていたどじょうが豆腐の中から出てきたというわけか。なるほど、なるほど」
「お客人、早く召し上がらないと、せっかくの料理が冷えてしまいますよ」
「おお。そうじゃそうじゃ」と正徳帝は、さっそく箸を取った。これを横で見ていた供が笑顔で「旦那さま、面白いですね」という。
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