「そのあとは、娘が年頃なので、町の多くの若者が嫁に来てくれと言いに来ましたが、娘はおとなしくて男前の宿の主の息子と夫婦になりました」
「ほうほう」
「それも、宿屋の嫁になるのではなく、息子が店に婿にくると言うことなのです」
「へえ。宿屋の息子はどうだったのじゃ?」
「実は娘はきれいですから宿屋の息子は、山にはじめてたずねに行ったときに一目ぼれしてたんですよ」
「ふんふん、で、宿屋の主はよく首を縦に振ったもんだね」
「なにね。宿屋には息子が三人いましたから」
「なるほど、なるほど」
「こうしてこの店は働き者でもあった宿屋の息子を加わり、三人は一生懸命に働き、店はここら一帯では知られるようになり、大きくなっていったです」
「ふんふん。そうでござったか。で、あの料理じゃが、どじょうがそう簡単に豆腐の中にもぐりこむのか?」
「あの料理でございますね。あれはどじょうが自分で豆腐の中に喜んでもぐりこんだのではございません」
「では、どうして?」
「あれは、娘が何度も何度も試して考え出したものです。もちろん、どじょうは弟は捕まえたものですが、娘は捕まえたどじょうをきれいな水に数日入れておきます。それはどじょうに腹の中の泥などをきれいに吐き出させるためです」
「そうなのか?」
「はい、お客人は普段からどじょうなどは口にされないからご存知ではないでしょう」
「うーん。それもそうだが」
「で、話を戻しますが、こうして泥を吐かしたどじょうを二日ほど、水を入れていないたらいに入れておきます」
「どうしてじゃ?」
「どじょうを腹ペコにさせるためです」
「うん、うん」
「そのあとは、ごま油をたらいに流し込みます。こうすると腹ペコだったどじょうは、ごま油を夢中で吸い込むからです」
「なるほど、そういえば、あのどじょうにはごま油の味がたっぷりついていたな」
「でしょう。そして卵の黄身を入れ、どしょうに食べさせるんですよ」
「へえ、卵の黄身をね」
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