「うん、うん。朕は、いや!わしはこんな料理は初めてじゃ」と正徳帝は、さっそく豆腐を口に入れた。すると豆腐は薄味だがとろけるようにうまい。そこで正徳帝は酒を二杯ほどのんだあと、豆腐の中から出てきたどじょうをつまむと、どじょうは骨まで柔らかく、ゴマの味と玉子の味がしてこの上なく珍味で美味しかった。
うれしくなった正徳帝は、この料理をもう一皿呼ぶと供にもこれを食べるよういい、自分は酒と肴を満足いくまで味わった。こうして正徳帝は供に勘定を払わせ、また岸に向った。みると、そこにはさっきの船頭がニコニコ顔で待っていた。
「おう。そのほうは先ほどの・・」
「どうでございました?」
「うん、うん、とてもうまかった。堪能した」
「そうでございましたか。それはようございましたな。さ、早く船にお乗りください。私がまたお送りいたしましょう」
「おう。そうであるか。すまんのう」と上機嫌で船に乗った正徳帝だが、いま食べたばかりの豆腐料理があまりにもうまいし、それにどうやって豆腐の中にどじょうを隠したのかが気になっていた。そこでニコニコしながら船を漕いでいる船頭に聞く。
「今ひとつ聞くが、そのほうが教えてくれた"どじょうの豆腐潜り"じゃが、あの店の酒もうまいのう」
「お客人は修江酒楼という料理屋に入られたのでございましょう?」
「いかにも」
「あの店が、ここらでは"どじょうの豆腐潜り"作りの本家ともされているのでございます」
「ほう、そうでござるか。で。あの料理は誰が作り始めたのじゃ?」
「はい。あの料理は元は"山どじょうの豆腐蒸し"といいまして、実は山に住む若い娘が考え出したものでございます」
「なんと?若い娘がのう」
「はい。いまあの店の主は三代目で、実は私はあの店の主とは遠い親戚に当たります。ですから、あの料理の作り方なら少し知っております」
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