池莉は現代中国の先鋭的な女流作家です。1957年中国湖北省生まれ。現在は中国武漢市文学連合会の主席、第10期全国人民代表大会の代表でもあります。主な作品は「来々往々」、「初恋」、「太陽誕生」、「愛なんて」、「ションヤンの酒家」などです。彼女の作品は数多くの文学賞を受賞したほか、映画化されたものもあり、また、外国語に翻訳されたものも多くあります。
次は彼女の小説「ションヤンの酒家」の内容を紹介します。この作品は湖北省の大都市、武漢を舞台としています。主人公は来双揚という"やり手"の女性。彼女は最初、工場で働いていましたが、火事を起こしてしまい、職を追われ、漢口の吉慶街で屋台をやって、生計を立てていました。その後、鴨頸(家鴨の頭部。酒のつまみとなる)の店をやって、小金をもうけ、吉慶街の実力者に成り上がりました。
彼女の周りにいる人間は、揃いもそろって一人前になり損ねたような人ばかりです。妻に迫害されてションヤンの家に転がり込む兄、薬物中毒の弟、四人の子を放り出して女と懇ろになった父、テレビ局に勤め、知識人を自負しているが、現実的な面では大事なところがスッポリ抜けている妹??こういった人々の面倒を見ながら、現実主義に徹して生きてゆく女盛りのションヤン??の姿が描かれています。この小説が発表された後、中国国内で大きな反響を引き起こし、また、ドラマ化されました。
中日両国の有名な女流作家20人が、2001年9月12日から2日間、北京で会合し、伝統文化と風土、生と死に対する想像力、言語の表現力など、中日女流文学の歴史や現状について、幅広く議論と交流を行いました。 中国側出席者は、張抗抗、残雪、方方、池莉、陳染、林白、遅子建、徐坤ら、日本側は、津島祐子、中沢恵、小川洋子、多和田葉子、松浦理恵子、道浦母都子、金真須美、茅野裕城子、中上紀などです。この会合で、池莉さんは次のように発言しました。
「私は日本を訪ねたことはないが、外国のなかでは最もよく知る国だと言える。『源氏物語』や川端康成、三島由紀夫、村上春樹、森村誠一などの作品から、最近翻訳されたものまで、日本の小説は数多く読んだ。日本の映画もよく見る。私の小説は、90年代初めごろから日本に紹介された。1994年、早稲田大学出版部が中国の現代小説の翻訳集(全六巻)を出版して『日本翻訳出版文化賞』を受賞した。そのなかに、私の作品『有土地就会有足跡』(邦訳:『初恋』)と『太陽出世』(邦訳:『太陽誕生』)が収められているようだ。私は『太陽出世』の訳者、『来来往往』を翻訳中の訳者、翻訳刊行物の編集者、そして作家兼社会活動家の池上正治氏ご夫妻などの日本人と文通をしている。中国に留学している日本の大学生のなかには、私の作品についての論文や翻訳のために、私に会おうと何度も武漢に来てくださる人がいる。そうした若者との交流はとても楽しいものだ。それにより、私にとって日本が身近に感じられるのだ。もちろんそれは、私個人の目で見た日本でしかない。今回のシンポジウムを通じて、新鮮な感覚や新しい視点がもたらされるならば嬉しく思う。言葉というものは、それ自体が大きな「溝」であろう。民族間の歴史や文化、社会体制、生活様式はそれぞれ異なるため、言葉の溝がさらに深まるのである。翻訳作品を通しての交流は、永遠に遅れを伴うものだし、「隔靴掻痒」の感がある。だからこそ「会うこと」が重要なのだ。じかに会えば、言葉をこえる生の感覚が得られる。時にはそうした感覚が、人間としての共感を呼ぶのである。顔を会わせて、両国にはこれほど多くの女流作家が作品を出している、とわかるだけでも、非常に喜ばしいことだと思うのである」
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