「ちょっとまった!みんな、飲み食いはじめる前に、今日の宴は誰が金を払うかを確かめたい。こんなに大勢が飲み食いするにはかなりの金がかかるぞ。飲み食い終わって酔っ払ったりし、金を払うときに知らん顔して帰られたら困るからな」
これを聞いたほかの同僚たちは「それはそうだ」と口々にいい、若者を見る。
これに若者は笑って答える。
「はははっは!わたしに払う金がないというのですね。金なら払えますよ」
こう言って若者は立ち上がり、店の小僧に小麦粉を水でこねたあとの塊を厨房から持ってこさせた。これをみんなは怪訝な顔をして見ている。そこで若者は、それを手で小さくちぎって卓上に置くと、それはすぐにネズミにかわり卓上を走り回った。これにみんなはびっくりして口をあけたままでいる。そこで若者は、これらネズミを一匹一匹捕まえ、その腹を両手で割りあけた。するとネズミの腹からそれぞれ銀が出てきて、若者はそれを自分の前に積んだ。
みんなはこれに声が出ない。
「これだけあれば十分でしょう」と若者が言うので宴が始まった。みんなはもう金がのことには触れず、心では、この若造は只者ではないと思いながら飲み食いし始めた。こうして宴が終わり、若者は金を払った。そして金いくらか余ったようなので、一人の同僚がいう。
「すまんが、そのネズミの腹から出てきた金を一つ貸してくれんかね。不思議で珍しいのでほかのものにも見せたいよ」
「いいですよ。どうぞ」と若者は余った金をその同僚に渡した。こうして宴はおわり、みんなはひそひそと話しながらそれぞれ帰途に着いた。
で、若者から余った金を貰った同僚がそれを持ってふらふらと家に戻った。
家では妻は、夫が久しぶりに酒でいい気持ちになって帰ってきたのを見ていう。
「どうしたんですか?うれしそうで、何が不思議そうな顔して帰ってきたりして。なにかあったんですか?」
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