さて、その後のある日、趙公は友人の家で酒を飲んでいて、応接間にきれいな蘭の花があるのを見て、その見事さに見取られ、帰宅後もその蘭の花のことを口にしていた。これを聞いた若者がいう。
「そんなに蘭の花を好まれるのなら、わたしが何とかしましょう」
「え?ほんとか?そちはなんとかできるのか?」
「もちろん」
これを聞いた趙公は半信半疑だったが、翌朝、屋敷の書斎に近づくと、蘭の花の匂いがするので、まさかと思って足を速め入ってみると見事な蘭の鉢が窓際においてあった。
「おお、これはすばらしい、なんと見事なことだ」と花に近寄り、目を細めると、それは昨日、友人のところで見たものとよく似ていた。そこで趙公は、これは若者が友人の家から盗んできたものではないかと疑い、若者を呼んだ。
「この花は見事じゃが、昨日わしが友人の家で見たものとそっくりじゃぞ。さては、その方・・」
「何を申されます。言い遅れましたが、わたしの実家には多くの蘭が植えてあります。わたしはそのうちの一つをここに持ってきただけのこと。人のものを盗んだりはいたしません」
「ほんとうか?」
「うそはいいません」
こう若者が答えていると、下のものが昨日自分が訪ねた友人がやってきたというのでこれは丁度いいと思い、趙公は友達を応接間に通した。こうしてその友人は応接間に着たが、窓際に見事な蘭の鉢がおいてあるのを見ていくらか驚き、細かくそれを見始めた。これを見て趙公は困った顔をしたが、当の若者は落ち着き払い、黙って眼をつぶっていた。やがて友人が驚きの声を出し趙公にいう。
「趙公どの。この蘭の花はうちのものとまったく同じでござるぞ!」
「え?そんなことはないだろう」
「いやいや、まちがいない。これはうちにあった蘭の花ですぞ」
|