「なにがごようでしょうか?」
こちら趙公も好きな部下なので怒鳴りたくはない。
「うん!そちもどうしたんじゃ?」
「ああ、あの件ですね。昨夜のことでしょう?」
「いかにも」
「実は、数人の先輩たちがわたしを困らせようと、金のないわたしに三十人もの先輩に奢れと迫りました。これは何とかしなければと考えたあげく、むかしいくら方術を学んだことを思い出し、これを使って意地悪な先輩たちをからかおうと思い、その・・・」
「そうか。しかし。そちには方術ができるのか」
「いえいえ、子供だましのものだけですよ」
「しかし、料亭で使った金はなんとかしないと、聞こえが悪いのでわしも困る。金はわしが払ってもいいのだが・・」
「いえいえ。とんでもない。あなたさまには払わせたりはできません。」
「ではどうする?」
「ご心配なく。これ以上ご迷惑はかけません。わたしがあとの始末をします」
「だろうな。そちほどの男じゃ。まあ、なんとかしてくれ」
こういって趙公は若者を返した。そこで若者は、その足で昨夜余った金を持ち帰った同僚をさがしていった。
「やあ、昨夜は驚かしてすみませんでしたね」
「いや。驚いたことは確かだが。料亭の払いはどうするのかね」
「実は、東の村では麦刈りが終わりましてね。しかし、今年はかなり豊作だったので、麦の穂をきれいに取らないで捨てているんですよ。ですから、いまから残った穂を取りにいって、それを金に換えれば、昨日の飯代いぐらいになりますよ」
「ええ?ほんとかね」
「これ以上、騙したりはしませんよ。でも、今日はわたしは趙公さまの用事で忙しいんですが」
「いや、ご馳走になったのはわしらだから、これから人を呼んでさっそくいってみる」
「じゃあ、おねがいしますよ」
ということになり、若者は自分の仕事に帰った。こちら同僚たちが東の村に行くと若者の言うとおりであり、それに取った穂も多く、料亭に渡す金には余るほどだったので、同僚たちは若者がいくらか恐ろしくなり、それからは誰一人として悪さを止めた。
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