「おう!よく聞いてくれたなあ。実は、今日不思議なことがあってな」と同僚は自分の妻にかくかくしかじかとはなした。
「ええ?そんなことってあるんですか?そのお金とやら持って帰ってきたんだったらわたしにも見せてくださいよ」
「おう。そうだった。これだよ」と懐から袋を出して妻の前であけた。すると包んであった金は、二人が見ている前で、ふとネズミに変ったかと思うとヒュット飛び上がり、すぐに消えてしまった。これに驚いた同僚は、びっくりして腰を抜かした妻をほっておき、家を出て一目散に先ほどの料亭にやってきた。
で、こちら料亭では、何か起きたようで騒がしかった。そこへ「これはやっぱり」と思ったこの同僚が飛び込んできたので、料亭の主がいう。
「これはさきほどのお客様でございますね」
「いったいどうした?あの奴が払った金がネズミに変わって消えたんだろ?」
「いえ、違います」
「じゃあ、どうしたんだ?」
「貰ったときは確かに金でございましたが、先ほど見てみると、なんとそれが浜菱(ハマビシ)に変っておりました」
「なんだと?浜菱に?これはいかん。はやく趙公さまにお知らせしなくては」
ということになり、この同僚はその足で趙公の屋敷にむかい、ことの仔細を告げた。
「なに?それはまことが?お前は酒臭いが、酔っ払ってでたらめいっておるのではないだろうな?」
「とんでもない!酒を飲んではおりますが、いま言ったことは本当でござります。わたしの妻のほかに料亭のものが証人となりましょう」
「そうか。うそではないらしいな。では明日にでもあの者にわけをきいてみよう。今日はお前はこれで帰れ」とその日は終わった。
翌日の朝早く、かの料亭の主が昨夜の件で若者が勤めている趙公の屋敷を訪ねてきたので、趙公はこれはいかんと、料亭の主に「任せておけ。きっと金は払わせる」と言って返したあと、さっそく若者を呼んだ。
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