そこでふうてん和尚は、「山がほんとに飛んでくるんじゃぞ。うそはつかない、早く逃げなさい!拙僧はこれまでうそをついたことはござらん」と懸命にとく。これに村の若者は、「坊さんよ!いい加減にしな。もし山が飛んでくれば、おいらたちが受け止めてやる!」と言い返す。それに遠くでは娘たちが、笑いながらこれを見物している。
こうしてふうてん和尚の言うことを誰もきかない。そこで和尚さんは仕方なく、いったんお寺に戻った。しかし、やはり心配である。
「いかんなあ。ふだんから拙僧がほかの坊さんといくらか違うので、村人たちは拙僧を馬鹿にして、言うことをぜんぜん信じてくれん。これはいかんぞ。こんなことしていたら大変なことになる。なんとかせにゃならんわい!どうしよう!どうしよう!」といらいらして行ったり来たりしている。
そのとき、遠くから笛を吹き、太鼓を鳴らす音が聞こえてきた。ふうてん和尚は一体なんだと、寺を出てみると、どこかの家で嫁入りが始まったようで、多くの人がその家を出入りしている。これをみてふうてん和尚は、頭をかきながら考えていた、そろそろ昼過ぎになので、「こうするしかない」とつぶやいた和尚は、走ってその家に入り、奥の部屋で綺麗に着飾って真ん中に座っている花嫁に近づき、「なんだ、なんだ?」と不思議がっている周りの人にかまわず、花嫁を担ぐと、外に飛び出した。
これにはみんなびっくり!
「大変だ!あのふうてん和尚は気が狂ったのか花嫁を奪って逃げたぞ!」
この声に、家の中と外にいた人は、あわててふうてん和尚のあとを追う。そしてこれをみた道行く人や、これを耳にし家から出てきた村人がとが、大勢がわいわい騒ぎながら、「花嫁を取り返せ!けしからん坊さんだ!」と叫びながら花嫁を担いで走る和尚のあとを追いかけ始めた。あるものは天秤棒を手にし、あるものは鋤を振り回し、あるものは縄を持っていた。
こうしてとうとうこの村の年寄りから子供までがみんなわいわいがやがやと追ったのである。
中には走りながら話しているものもいる。
「へえ!坊さんが花嫁盗むだってはじめて聞いたぜ」
「ひどい坊さんだな。普段から変わっていると思ったら、とうとう大変なことしでかしたぜ」
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