こうして昼ごろになった。そこはある村で、数十の農家がある。かなり歩き疲れも出てきて喉も渇いた。が、あたりには飯屋などはない。そこで二人は近くの農家の庭に入り、張玉書が声をかけた。
「ああ、すまんが誰かおるか?」
すると、中から若い女子が出てきて、金持ちでありそうな二人を見て少し怖気付き「なんか用ですか」という。
「いや。散歩がてらにここまで来て喉が渇いたのでお茶でも飲ましてもらおうと思ってな」
これを聞いた女子は、どうもこの農家の妻らしく、やってきた二人は善人だとみたのか、汚い家だけどと言ってさっそく二人を中にいれ、釜で沸かしたお湯を冷まして二人に出した。もちろん、茶碗は安物だが、乾隆帝と張玉書はなんとも思わずそれを飲み始めた。喉が渇いていたので白湯でもうまい。
「うん、うん。うまいのう。もういっぱいもらえるか?」と乾隆帝がいうと妻は茶碗に白湯を注いだ。こうしてのどの渇きを潤した乾隆帝だか、今度は腹の虫が鳴り出した。そこで乾隆帝は、自分の腹の虫の声を耳にして微笑んでいる張玉書を横目でにらんだあと、農家の妻にいいだす。
「実は、朕、いやちょっと腹が減ってな。何でもいいから食わしてくれんか?」
これを聞いた農家の妻、「うちは貧乏で何もありませんけど、まずいものでいいですかね」と聞く。
張玉書がいう。
「大丈夫じゃ。この方は何でも食べられる。どんなものでもいいから早く出して食べさしてくれ。これからまだ用事があるのでな」
こうして農家の妻は、米のお粥、小麦粉を水でこねて丸くし火で炙ったものと漬物を出した。これらは粗末なものだが、腹が減って仕方なかった乾隆帝は、うまそうな香りを嗅いでから、さっそく箸を取り、張玉書にかまわず食べ始める。
「ウン!うまい!うまい!うまいのう!」
これに張玉書もうなずきながら箸を運ぶ。やがて二人は出されたものをきれいに食べてしまった。
「ふー!食べた食べた!うまかったのう!ところで、その方はなんと申す」
「私ですか?私は春花といいます」
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