「え?本当でござるか?」
「脈を取らしてくだされ」
こうして申光遜は孫仲敖の脈をとったあという。
「う~ん!わかりました。どうであろう。貴公との四方山話はあとにして、明日、道具を持って、またきましょう。貴公の病を治せるかどうかわかりませんが、かなり苦しまれているようですから、なんとかしてみましょう」
これには孫仲敖は大喜び。
「ではまっておりまする。で、私のほうはどんな準備を?」
「そうですな。酒一升、胡椒と干した生姜だけを準備してくだされ」
「酒を一升?」
「いかにも。どうなされた?」
「いや。わかりました」
こうして申光遜はそのまま帰っていった。
さて、翌日、申光遜は約束どおり、供を連れて孫仲敖の屋敷にやってきた。そして、酒を温めさせ、胡椒と干した生姜を鉢に入れで細かく粉になるまでつぶし、それをぬるい酒でゆっくり溶かした。そのあと持ってきた箱から二本の黒い長い管を取り出した。
これを横で見ていた孫仲敖は、不思議がるばかり。酒と胡椒と生姜で自分の病が治るのだろうかと首を傾げる。これをみて申光遜は笑い出した。
「はははは!孫どの。貴公を酔わしたりするのではないので、安心なされ」
これを聞いて孫仲敖は苦笑いした。そこで申光遜はかの黒い管を孫仲敖に渡していう。
「孫どの。この管を鼻の穴に挿し、この酒で胡椒と生姜を溶かしたものを吸いなされ」
「え?鼻で吸うのでござるか?」
「いかにも」
「それは・・」
「貴公に悪いことはいたさん。私はこれでも医者の端くれですからのう」
こういわれて孫仲敖は仕方なく、黒い管を鼻の穴に刺し込み、管のもう一方を酒で溶かしたものに突っ込み、目をつぶって思い切って吸った。途端、胡椒と生姜が利いたのか、孫仲敖は顔を真っ赤にして大きなくしゃみを何回がしたあと、目が回るといい、そのまま床にぶっ倒れた。
これをみた申光遜はまじめな顔して気を失った孫仲敖の側にすわって黙ってみていた。
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