次は「稽神禄」という本から「二粒の丸薬」です。
「二粒の丸薬」
長江の南にある吉州の長官は張曜卿という。張曜卿には陶俊という部下がいて、かつては張曜卿について手柄をたてた。しかし、ある戦で敵の飛礫にやられ、腰から下はしびれ、とうとう杖がなくては歩けないまでになった。戦も終わったので張曜卿はこのさっぱりとした気性の部下を哀れに思い、死ぬまで養ってやるから家で養生していろと進めたが、気のつよい陶俊は無駄飯を食うのはいやだと聞かないので、仕方なく、広陵の渡し場で見張りの役を命じた。この役目は軽いもので、舟を盗みに来たものを見つければ、木につるした鐘を叩いて、近くに住み込んでいる兵士たちに知らせるというもの。
さて、この陶俊、気は強いが弱いものにはやさしく、足腰は悪いものの、いじめられている人があれば必死になって助けていた。そこでこの一帯の人々は陶俊を大事にしたが、当人は威張ったり、人を馬鹿にしたりはせず、渡し場の近くに住む人たちを仲良く暮らしていた。
と、ある日、陶俊は少し用があって町に出た。そしてあいにく雨が降り出した。雨は病を持つ足腰に悪く、陶俊にとっては禁物。これはいかんと雨宿りのため、近くの居酒屋に入り、道に面した椅子に腰掛けて、腰が冷えるのを恐れてか酒を注文し、雨が止むまでちびりちびりとやっていた。
もちろん、雨宿りしているのは陶俊だけではない。いろいろな人が店にはいったり、軒下に立って雨の止むのを待っている。その中に二人の書生らしい人物がいて、雨雲で覆われた空を見たり、店の中を見たりしていたが、そのうちに二人は、一人で酒を飲んでいる陶俊に注意し始めた。
「うん?みてみな?あそこで酒を飲んでいる男を?」
「え?おう、おう。あの男は一目で気の優しいものだとわかるな」
「だろう?ああいう人がこの世に多ければいいのにな」
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