で、この時間は、虎にまつわる昔話をご紹介しましょう。
題して「虎の恩返し」です。
「虎の義兄弟」
北宋の時代。都の開封から離れた山にふもとに王天亮という若者が母と二人で暮らしていた。天亮は毎日山に入って薪をとり、それを町で売って貧しい家計を立てていた。
ある日、天亮がいつものように山に入り、やっとのことで薪を集め、そろそろ帰ろうというときに、一頭の虎が不意に現れた。天亮はこれにびっくり仰天。悲鳴を上げたあとあわてて鎌と紐を捨てて逃げ出そうとしたが、虎は一飛びして天亮の行く手をふさいでしまった。これに天亮はひどく震えてしまう。
「虎さん、どうかおいらを食べないでくれ」と両手合わせて跪いたが、虎のほうは襲ってくる様子はなく、大きな口をあけ舌から血を流し、苦しそうに吼えた後、天亮を見つめ、舌を出しながら尻尾を振るだけ。そこで、天亮は恐る恐る聞いてみた。
「虎さんよ。どうも怪我しているようだが、もしそうだったら、三回うなずいてみな。そうでなければ、尻尾を三回ふればいい」
こちら虎は人間の言葉が分かるのか、三回うなずいて見せた。これに驚いた天亮は、勇気を出していう。
「虎さん。どうも口の中の怪我らしいね。血が流れてるよ。どうだい、そこに座って口をあけておいらに見せてみな」
そこで虎はおとなし座り、大きな口をあけて天亮に中を見るようにというしぐさをみせた。天亮はいくらか震えて虎に近づき、口の中をのぞいてみると、一本の骨が舌に刺さり、そこは腫上がって血が流れ、どうもいくらか膿んでいるようだ。
「これはいかん。痛いだろうな」と気の優しい天亮は虎を気の毒に思い、相手が、人間が恐れている動物だということを忘れ、何と手を虎の口の中に入れて、舌に刺さった骨を抜き、死んだ爺さまが造り方を教えてくれた痛みと腫れをとる薬を、腰にぶら下げたひょうたんの中から出して手の上でつぶし、虎の舌にたっぷり塗った。そして天亮はそこを離れるのではなく、「じっとしていれば痛みや腫れは取れるよ。この薬は解毒の役割も果たすから、そのうちによくなる」といって虎の様子を見守っていた。
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