今日のこの時間は、昔の小話をご紹介しましょう。
最初は「豫章記」を言う書物からです。
「幸霊という若者」(幸霊)時は晋のころ。
豫章という地方の建昌に幸霊という若者がいた。彼は生まれつきおとなしく、みんなと遊んでいていじめられても怒らない。そのうちみんなは幸霊のことを馬鹿にし始めた。そして父は兄も幸霊をのろまだと思うようになり、仕方がないので稲田の見張りをさせた。しかし、幸霊は牛がきて稲を食べても追い払おうとはせず、牛が去ってから踏み潰された稲を元のようにように起こす。これを見た父は怒鳴ったが、これに幸霊はこう答えた。
「だって、どんなものでもこの世で要るものを手に入れるんだよ。腹が減った牛が稲を食べたからって追い払うことはないだろう」
「なんじゃと?じゃあ、踏み潰された稲をいちいち起こすこともないだろう!」「それはちがうな。父さん、稲だって生き物だから、怪我したら助けてやるべきだろう?」
この答えに幸霊の父も「こりゃあ、はなしにならん」と首を横に振り、匙を投げてしまった。しかし、そのとき、幸霊の目がきらりと光ったのだが、父はそれを見なかった。
さて、当時の建昌の県令は、官船を造るといって、地元の民百姓に艪(ろ)を作らせた。で、幸霊も艪を作ったが、まだ役所に届けていない前に、なんとそれを盗まれてしまった。が、幸霊の艪を盗んだ男は、急に頭が痛いと苦しみだし、これは人のもの、特に幸霊のものを盗んだ罰が当たったのだと思ったが、あののろまな若者に何が出来ると、頭がいたいのを我慢して幸霊のもとに様子を見に来た。そこで幸霊は何でも知っているかのように相手が話し出す前に言い出した。
「おまえさんだね。おいらの作った艪を盗んだのは!」
これにその男びっくりした。そして幸霊をみると、幸霊の目がきらりと光ったのでたまげた。それにしてもどうしてわかったのだろうと首をひねっていると、「ホントのこといわないと死ぬよ」と幸霊がいい、男の頭がすぐに割れるように痛み出した。
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