「うわ~!助けてくれ!わかった。わかった。俺があんたの艪をぬすんだんだ!許してくれ!たのむ!」そこで幸霊は、そばにあった瓢箪から水をお椀に汲み男に飲ますと、男の頭の痛みはうそだったかように無くなった。
数日後に官船が出来上がったので、みんなが作った多くの艪が据付けられた。そして試しにと多くのものが乗り込み、艪を漕いで舟を出そうとしたが、どうしたことか船はぐるぐる回るばかりで少しも進まない。これを知った幸霊が港に来て手を出すと、どうしたことか、船は動き出した。これに驚いたみんなは幸霊を違った目で見始め、あるものは彼のことを仙人だといい出した。
さて、この地方に龔仲儒という役人がいて、その娘が長い間おかしな病を患い、多くの医者に見てもらったが、効き目なく、病は重くなるばかりで娘は明日にでもあの世へ行くかのような有り様だった。このとき、家のものが町で聞いてきた幸霊のうわさを主人の龔仲儒の耳にいれた。もう娘は助からんと諦めて、毎日憂鬱な気持ちでいた龔仲儒は、最後の試しにと幸霊を屋敷に呼んだ。
屋敷に着た幸霊は、娘の状態を見てから少し考えていたが、急に目をきらりと光らせ「庭の池の水を汲んできてくれ」という。龔仲儒はさっそく下男にその水を汲ませてきた。そこで幸霊はそれを一口飲んでからプーッと娘の顔に吹きかけた。 驚いた龔仲儒が「なにをする!!」と叫ぶと幸霊はそのまま屋敷を出て行った。慌てた龔仲儒が追いかけようすると、これまで気を失っていた娘が目を開けていう。
「おとうさま。お腹がすきました。何でもいいから食べさせて!」
これに龔仲儒びっくり。不審に思って娘に聞く。 「娘や。具合はどうじゃ?」
すると娘は起き上がり、自分で床を下りていう。「体中がすっきりしました。どこも痛みは感じません。それより、何か食べさせてください」
ここまで聞き、龔仲儒は娘の病がよくなったことを知った。
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