フランス国内を含む3000キロのコースを3週間以上にわたって走り抜く世界最高レベルの自転車レース、ツールドフランスは、7月29日、長く過酷なレースを終えて、各選手がフィニッシュしました。今年は、トップを走っていた選手がドーピング疑惑でレースから除名されるなど、とんでもない波乱がありましたが、それでもやはり、この大会に出場することは自転車選手にとって最高の夢です。その一人が、中国の自転車ロードレースを引っ張っている李富玉選手です。
李富玉選手は、29歳。山東省出身。当初は陸上競技を志していましたが、ケガのため、地方代表の選考会に出場することができず、止むを得ず、自転車に転向しました。でも、自転車をやり始めて、あっという間に台頭して、国内の一流選手に成長しました。
日本の国体にあたる全国スポーツ大会で優勝したあと、2005年、オランダのプロ自転車チーム、マルコポーロに加入して、中国初のプロ自転車選手となりました。そして、次の年、2006年2月にはタイで行われた国際ロードレースで、国際大会初の優勝を果たしました。その後は、ドイツのヴェストファーレン・グランプリで優勝を飾り、自転車競技の先進地域、ヨーロッパでも、「中国に李富玉あり」と言われるようになりました。
この時、自転車の名門、アメリカのプロチーム・ディスカバリーチャンネルが李富玉選手に目をつけました。今年1月、李選手は、晴れてその一員となりました。ディスカバリーへの加入について、李選手は、「ちょうどそのころよく大会に出場して、国際大会でもある程度の実績を残すことができた。その成績を評価してくれた面もあると思うが、当然、チームとしては、アジアの選手を入れたいという思惑もあったと思う。ただ私にとっては、レベルの高いところでやる大きなチャンスだ。また中国の自転車協会も、大いにバックアップしてくれるということだったので、入団を決意した」と振り返りました。
このディスカバリー・チャンネルというチームは、UCI・国際自転車連盟に所属するトップ20の一つで、毎年、ツール・ド・フランスにも出場しています。1999年から2005年にかけて、チームのエース、アームストロングが全人未踏のツール・ド・フランス7連覇を果たすなど、世界一の自転車チームと言えます。
李富玉選手にとって、世界のトップチームにいてレース出場の機会が増えるのは勿論ですが、トップレベルの練習ができたり、様々なノウハウをつかめたりと、アジアにいるだけでは、とても得がたい経験ができました。
今年1月の加盟から半年間を振り返って、李選手は、「去年と比べて、技術面はもちろんだが、体力面や精神面でも大きく進歩したと感じている。アジアにいては、学ぶことのできない団体戦術などを、一流のメンバーにもまれながら、身につけることができる」と語っています。
今回のツール・ド・フランス期間中、ディスカバリーチャンネルチームの一軍は勿論そちらに出場していましたが、残念ながら李富玉選手はそれには参加できず、ちょうど同じ時期に祖国のチベット自治区で行われていた環青海湖ロードレースにディスカバリーの2軍チームの一員として出場していました。
この環青海湖ロードレースは、チベット自治区にある青海湖をめぐるレースで、今年で6回目を迎えます。総走行距離は1392キロ、今年は20チーム147人が出場しており、競技レベルはアジア一。また世界一海抜の高い場所を走るロードレースでもあります。
ディスカバリーチャンネルチームはこのレースに初参加。チームには李富玉という中国人選手がいるということで中国国内の大きな注目を集めました。李選手は、アジア選手で3位となり、結果自体は不本意ながら、大きな意義のある大会となりました。今後の目標について、李富玉選手は、「自分自身の力を世界のレベルに引き上げるために一番大事なのは、国際レースに積極的に参加して経験を積むことだ。ディスカバリーの一員として世界を転戦し、自分を磨くことが今の課題だ。将来は、やっぱりツール・ド・フランスに出場したい。できれば来年、もしくは再来年、あの大きな舞台に出場して、チームのため、そして中国のためにレースを戦えたらと思う」と話しました。
李富玉選手は、今年6月に、北京五輪の出場資格も得ています。ツールドフランスの前に、まずは祖国で開かれるオリンピックで、海外での武者修行の成果を示せるか…ぜひ、この李富玉という名前を覚えておいてください。
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